※春奈ちゃん視点
※無自覚に腐女子っぽいです
一年生皆で一緒にボールを運んでいると、立向居くんが遠くにいるキャプテンを見つめてぽつりと言った。
「円堂さんって本当にすごいなあ…」
その言葉には多大な尊敬が含まれているのが聞いてすぐ分かる。
思わずキャプテンを見ると、ハードな練習が終わった後にも関わらず、元気な様子でサッカーボールを拾い集めている。
立向居くんの言葉を聞いた壁山くんと栗松くんも頷いた。
「キャプテンは本当にすごいっス。オレ、今までキャプテンのダメなとこ見たことないっスよ〜」
「さすがキャプテンでやんす!」
そうしてキャプテン談義で盛り上がる三人に、木暮くんが水を差すように言った。
「そーかな?キャプテンだってさぁ、今はああいう熱血キャプテンだけど、実は裏では違う顔があるかもしれないじゃん」
うっしっし、といつものしたり顔で木暮くんは笑う。
明らかに皆のことをからかうつもりだ。
三人はその言葉に、一瞬きょとんとした顔をする。
「裏の顔…でやんすか?」
「どういうことっスか?」
「例えば?」
栗松くん、壁山くん、立向居くんが口々にそう返したので、その勢いに押されて木暮くんは少したじろいだ。
「えっと、例えば……なんて分かんないけどさあ、とにかく!絶対オレたちに見せてないような顔もあるって!」
自分で吹っ掛けたのに返り討ちにあったような木暮くんは、もうこの話は終わり!と言わんばかりに走ってボールを運んで行った。
「あっ、木暮くん速いっスよ〜!」
皆も木暮くんを追うように、走って用具倉庫に向かう。
その一連のやり取りを少し離れた場所で見ていた私は、ふむ、と息をついた。
今の木暮くんの言葉には、少し興味があるかもしれない。
確かに私の知ってるキャプテンは、サッカーに夢中で、努力家の頼れるキャプテンといった感じだ。
だけどそんなキャプテンにも、絶対に私たちの知らない面があるはず。
元新聞部のサガというやつか、私は俄然興味が沸いてきてしまった。
これはちょっと調査すると面白いかもしれない。
そう思った矢先だった。
キャプテンの違う一面を目にしたのは。
今日も練習が終わり、私たちマネージャーは飲み物を入れるジャグを洗ったり、汚れたボールを拭いたりと、細々とした片付けをしていた。
「音無さん、悪いんだけど、キャラバンにあるタオルのカゴを持ってきてくれない?」
洗い立てのタオルを両手いっぱいに抱えた秋先輩が、私に向かってそう言った。
ちょうどボールも拭き終わって手が開いていた私は、はい!と元気よく返事をして、一人キャラバンに向かって走った。
今日は天気もいいから、なんとなく気分良く足を進めていると、キャラバンからすごい勢いで何かが飛び出して来た。
えっ、と思ったけど、それを声に出す間もなくその『何か』は私の肩にぶつかった。
その勢いで、私はちょっと後ろによろける。
衝撃で額のメガネが地面に落ちた。
落ちたメガネを拾おうと屈むと、誰かが先にそのメガネを拾い上げた。
「わ、悪い音無…。大丈夫か?」
見ると、風丸さんが申し訳なさそうにメガネを差し出している。
何だ、ぶつかったのは風丸さんだったのか。
さすがにスピードがあるだけ衝撃も強いなあ、なんて思いながら私はメガネを受け取って立ち上がる。
「ありがとうございます。…でもどうしたんですか?そんなに急いで」
よく考えてみたら、選手の皆はこの時間は休憩時間のはずだ。
何をそんなに急いでいるんだろう。
「いや、その…」
言い淀む風丸さんに、私は首を捻る。
どうしたんだろう、何かあったのかな。
よく見ると、何だか風丸さんの顔が赤い気がする。
「具合でも悪いんですか?何だか顔が赤いですけど…」
そう言うと、風丸さんは急に焦り出した。
「いや、何でもないんだ、本当に!」
ぶつかって悪かった!と、風丸さんはまたすごい勢いでどこかに走って行ってしまった。
…なんだったんだろう。
疑問は残るものの、私は自分がキャラバンに用事があって来たのを思い出して、入り口のドアを開けた。
足を一歩踏み入れると、またすごい勢いで私の前に何かが飛び出して来た。
「ごめん風丸っ!急にっ…って…、」
私はびっくりしてしまった。
キャプテンがものすごい必死な形相で、顔を真っ赤にさせて謝ってきたから。
「あ、音無か…。ごめん、風丸が戻って来たのかと思って…」
「…いえ、大丈夫です…」
私がそう答えると、真っ赤だった顔がどんどん落ち込んだような表情になってきた。
こんな顔したキャプテンは珍しいかもしれない。
「…あの、何かあったんですか?」
さっきぶつかった風丸さんの様子といい、今のキャプテンの落ち込みようといい、これは二人の間に何かあったに違いない。
私はそう推測した。
すると、案の定キャプテンはぽつりぽつりと話始めた。
「…いや、オレが悪いんだけどさ…」
そう言って床に目線を落とすキャプテンは、いつものキャプテンじゃないみたいだった。
私も思わず真剣な面持ちでキャプテンの顔を見る。
「――なあ音無、例えば…、急に後ろから抱きつかれたりしたら、どうする?」
………え?
なんて唐突なことを言うんだろうか。
というか、その質問って…。
キャプテンはオブラートに包んだつもりかもしれないけれど、私は一瞬にして二人の間に何があったのかを察してしまった。
赤い顔をして走り去る風丸さん、キャプテンの焦り顔と謝罪、そして今の質問。
これだけの情報があれば、状況を読み取るのは容易いことだ。
おそらくキャプテンは急に風丸さんに抱きついて、風丸さんに走って逃げられた…というとこだろう。
二人がそんな仲だったとは。
そう理解して、私は自分の中に不思議と嫌悪感がないことに気付いた。
むしろ沸々と楽しさみたいなものがわき上がってきている。
二人の距離を近付けるべく、私はにっこり笑ってキャプテンにこう言った。
「…そうですねぇ、びっくりして思わず突き飛ばしてしまうかもしれません。相手のことが嫌じゃなくても」
皆そうじゃないですか?とトドメの一言をかけると、キャプテンは瞳をキラキラさせて私のことを見た。
「…そっか、そうだよな!」
そして私の手をがしりと掴み、ぶんぶんと上下に振ってから「ありがとな!」と言ってキャラバンから飛び出して行ってしまった。
その後ろ姿を見つめて、私は思わずちょっと笑ってしまった。
木暮くんの言ったこと、案外当たっているかもしれない。
私たちには見せない、キャプテンの一生懸命恋する一面を見れて、私は満足した気持ちでグラウンドに戻った。
イナズマキャラバン密使事件
(…あれ、音無さん、カゴは?)
(あっ…、す、すみませんっ!すぐ持ってきます!)
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風丸は円堂さんに急に後ろから抱きしめられたもんだから
びっくりして突き飛ばして、恥ずかしくなって逃げちゃったんです
それで嫌がられてると勘違いした円堂さん
そしてそんな二人を見抜いちゃう春奈ちゃん
補足しないと分かりづらい話ですね
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