最近手相を見るのに凝っているという吹雪が、オレの手のひらを見て言った。


「すごいね風丸くん、夢見る乙女線があるよ」

「……は?」


ほらこれ、と言って吹雪は人差し指の下にある線を指差した。
確かにそこには斜めに短い線が入っている。
が、何だ、その胡散臭い名前の手相は。

「この線がある人はね、理想が高い人なんだって。恋人とは常に甘い時間を過ごしたいタイプらしいよ」

吹雪のその言葉に思わず固まってしまう。
あまりにも現実とかけ離れたようなセリフに、知らず肌が粟立った。

「…それ、当たらないんじゃないか?」

「ひどいなあ、僕ちゃんと本とか呼んで研究してるんだよ」

けっこう当たるんだから、と拗ねたように言う吹雪。
いやしかし、当たるとしてもそんなのは信じたくない。


「なになに?吹雪、手相見れるの?」

隣に座っていた緑川も面白がって覗いてくる。

「うん。今風丸くんの手相を見てたんだけど、すごいんだよ。夢見る乙女線があるんだ」

吹雪の言葉に緑川は一度瞬きした後、堪えきれないというように吹き出した。

「ぷはっ、何だよその線!今腹筋痛いんだから笑わせないでってばっ」

さっき腹筋を鍛えていた緑川は、苦しそうにお腹を押さえる。

オレは緑川に恨めしげな目線を送った。

それに気付いた緑川は、まだ引きずられてはいるものの笑うのをやめた。

「ごめんごめん。だってあまりにも風丸とかけ離れてるからさ、可笑しくて」

ねえ、と緑川は吹雪に同意を求める。
吹雪は深く頷いた。

「確かに、風丸くんって外見と違って男前だしね」

うんうん頷き合う二人。

…なんだか少しバカにされているような気がするんだが。

「ねえ吹雪、オレの手相も見てよ!」

そんなオレの心境もいざ知らず、緑川が手のひらを吹雪に差し出した。
吹雪はしばらくじっと手のひらを見つめる。

「えーとね、緑川くんにはよちよち幼児線があるよ」

「はあっ!?」

何だか名前からしてあまり良い線な気がしない。

何だよそれ!と緑川が抗議の声をあげる。

「別にそんなに悪い線じゃないよ。この線は甘えん坊な人にあるんだけど、天真爛漫だったり無邪気だったりするからモテる手相なんだよ」

吹雪の説明に、そうかな?と首を傾げる緑川。
何だか少し当たっているかもしれない。
緑川はなんとなく甘やかしたくなるところがあるし。

そう思うと、手相って意外と当たるのかもしれない。
いや、でもオレの手相は信じたくないが。

そんなことを悶々と考えていると、後ろから円堂の声が聞こえた。

「おーい風丸!ちょっとボール片付けるの手伝ってくれないか?」

振り返ればボールカゴを二つ引いた円堂がいた。

「ああ、わかった!」

吹雪と緑川に断りを入れ、円堂の所まで走って行く。

ボールカゴを一つ引き継ぐと、円堂がちょっと笑っているのに気付いた。

「何だよ円堂」

そう問えば、円堂は笑ったまま答えた。

「いや、吹雪たちと話してるとこ見てたらさ、風丸いろんな顔するなーって思って」

しばらく見ちゃってた、と笑う。

…何だそれ。
は、恥ずかしすぎる…。

「…円堂は、手相とか信じるか?」

ボールカゴを押しながらそう聞くと、円堂はうーんと唸った。

「手相は変わるって言うし、オレは詳しくないからよくわかんないけど…」

そこで言葉を切って、円堂は立ち止まった。
くるりとオレの方を振り返る。

「でも風丸の線は当たってるかもな」

「はあ?」

「なんか、風丸といる時って変な気持ちになるし」

そう言って円堂は照れたように頭を掻く。

…変な気持ちって何だ。
もっと言葉の選び方があるだろ。

だけど、なんとなく円堂の言おうとしていることがわかってしまった。

それは何故かというと、やっぱりオレも同じ気持ちだからだろう。






(お前といると甘い気持ちになってしまうんだ)







カボチャの馬車と毒リンゴ




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わけの分からない話

夢見る乙女線とよちよち幼児線は本当にあります
某芸人さんが言ってた







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