おひさま園の裏庭にはたくさんの木が植えてある。
その中に赤い実をつける木があって、その木は不思議な力を持っているんだと父さんが言っていた。
何でも、奇跡を起こしてくれる力があるのだとか。

だからおひさま園の子供たちの間では、げん担ぎでその木の下でお願い事をするのが一種の流行りみたいになったことがある。
もうずいぶん昔の話だけれど。


そのずいぶん昔、幼かった私もそれを信じて、そこでお願い事をしたことがある。

晴矢が私を好きになりますように――と。



















「風介悪い。別れよう」

「……は」


おひさま園の人気のない部屋で、晴矢は重々しく告げた。

日が暮れ始めた空からは、赤い光が部屋に射し込んでいる。

「……何言ってるんだ?晴矢」

出した声は思いの外震えていた。


昨日は晴矢とケンカした。
何が原因だったのか思い出せないくらい、些細なキッカケのケンカだった。

今までも晴矢とケンカしたことは幾度もある。
しかしそれと同じだけ仲直りもしてきたし、それだけ仲も深まってきていると思っていた。
それなのに、今晴矢があまりにも真面目な顔をしているので、私は怖くなった。

「…急に話があると言ったと思えば、何なんだ急に…別れるだって?」

自分でも驚くくらいの頼りない声に、晴矢は俯いた。

「悪い」

その金色の瞳は私を映していない。

「でも、理由はお前が一番よく分かってるはずだ」


晴矢のその言葉は、私にひどい衝撃を与えた。

晴矢が顔を上げた気配がしたが、私は顔を見ることが出来ずに思わず顔を背けた。

「風介」

晴矢がそう呼びかけるのも無視して、私は晴矢の横をすり抜ける。


別れる?
何で。どうして。


―――理由はお前が一番よく分かってるはずだ。



晴矢の言葉がぐるぐると頭の中を回り、気付けば部屋を飛び出していた。













走って走って、行き着いた先は裏庭だった。
ここは滅多に人が来ないので、辺りはとても静かだ。

「――ふざけるなよっ…」

幼い時からずっと付き合ってきたヤツを、ああもあっさり振るものか。
何より昔の、サッカーもロクに出来ない、引っ込み思案だった私の告白を受けておいて、今のこの私を振るというのが…。

思いっきり息を吸って、私は大声で叫んだ。

「晴矢のヤツおかしいんじゃないか!?私は昔より強くなったって言うのに!」

その声に答えるようにざわざわと木々が揺れ、上から葉っぱや木の実が落ちてきた。
頭にぽつりと当たった木の実を拾うと、綺麗な赤い実だった。

晴矢が私を好きになりますように――

そうお願い事をした、あの木から落ちてきたものだ。

「…何が不思議な力のある木だ、」

それはもう完全に八つ当たりだったが、私は辺りに落ちている赤い実を手当たり次第に拾う。

「こんなものっ…!」

そして、その実を空に向かって思いっきり放り投げた。

上空に散らばる赤い実は綺麗だ。

その赤い実を見て、私は昔のことを思い出した。







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