せっかくの休みだからデートしようぜ!という円堂の誘いで、オレと円堂は隣町まで遊びに来ていた。
デートと言っても、サッカー用品店に行ったり、公園で小学生のサッカーに混ぜてもらったり、全く普段遊ぶのと変わりないのだが。



日も暮れ始めて、そろそろ帰るかとなった時、円堂がぽつりと言った。

「……鍵がない」

「え、」

円堂はゴソゴソと上着のポケットを探る。

隣町までは距離があるので、オレたちは自転車で来ていた。
どうやら円堂は自転車の鍵が見当たらないようだ。

「ズボンのポケットじゃないか?お前は何でもすぐズボンのポケットに入れるだろ」

「え?そうか?」

その言葉に円堂はズボンのポケットを探るも、鍵はなかなか見つからない。

「あー…、落としたのかもしれないな」

落としたかもしれないというのに、円堂はそれほど焦っていなかった。

「どうするんだ?」

「予備の鍵が家にあるから、とりあえずここに置いてって後で取りに来る」

なるほど、そういうわけか。
しかし、今から稲妻町まで帰るのはどうするんだ。
自転車を押して二人で歩いたら真っ暗になってしまいそうだし、かといって一人だけ自転車に乗って円堂を走らせるのも如何なものかと思うし。

いろいろ思考が巡ったが、一番良い方法はやっぱりニケツしかないだろう。

「円堂、荷台に乗れよ」

そう言ってオレは自転車の荷台を指すと、円堂はえっというような顔をした。

「いいのか?」

「ああ」

そう答えると、円堂は嬉しそうに笑った。

「じゃあオレが漕ぐ!オレが自転車に乗せてもらうんだし」

…そうだ、コイツはこういうところで律儀なヤツだった。

早くもオレの自転車に跨がった円堂は、早く早くと急かすように荷台を叩く。

「分かったって」

急かすなよ、と荷台に跨がる。
思いの外座り心地は悪くない。

「よし、じゃあ出発するぞ!」

ご機嫌な円堂の声を聞き、そこではっと気付いた。

……これ、どこに掴まったらいいんだ。

円堂の服を掴むのはさすがに恥ずかしすぎる。

迷った挙げ句、円堂が座っているサドルを掴むことにした。
いくら付き合っているとは言え、まだまだ幼なじみの延長みたいな関係だ。
今のオレにはこれが精一杯である。

そう思ったのに、円堂はくるりと振り返ってオレの手を掴んだ。

「ちゃんと掴まってないと危ないだろ?」

えっ、と思ったら、円堂はそのままオレの手を自分の腰に回した。

え、ええ?何だこの状況は。

「飛ばすからしっかり掴まってろよ!」

円堂にぴったりと抱きつくような形になったオレは、もはやパニック状態だった。
あれ、円堂の背中ってこんなに大きかったか?
身長差はほとんどないのに(むしろオレの方が大きいくらいだ)、いつもオレたちのゴールを守っているのはダテじゃない。
いつのまにかこんなに逞しくなっていたのか。

そんなオレの様子にも構わずに、円堂は自転車を漕ぎ出す。
二人分の体重を乗せているのに、スピードはぐんぐん上がって行った。

「どうだ風丸!速いだろ!」

漕ぐ足はそのままに、楽しそうにはしゃぐ円堂。

「おい、危ないだろっ!」

「平気だって!」

前を向いているから顔は見えないが、きっといつもみたいに笑っているんだろうと思った。
オレの大好きなあの笑顔で。

そう思うと何だか無性に円堂にくっつきたくなって、回した腕に力を込めた。

背中にそっと額を寄せると、ふわりと円堂の匂いがして、思わずドキッとする。

ああ、ずるい。
オレばっかりこんな気持ちになるなんて。

この気持ちが少しでも円堂に伝わればいいのに。

そんな思いを込めて、オレは円堂の名を呼んだ。

「なぁ円堂、」

「何だ?」

自転車は緩やかにスピードを落としていく。

風が気持ち良いくらいに吹いていて、夕方の少し冷たい風がオレの熱くなった頬を撫でた。

「…何でもない。ただ呼びたくなっただけだ」

「はは、何だそれ」

いつもと変わりないような円堂に見えたが、オレは気付いてしまった。
その耳が赤くなっていることに。

「円堂、耳が赤いぞ」

そう指摘してやれば、円堂は小さな声で呟いた。

「…、風丸がそういうこと言うからだって」

本気で照れている様子の円堂に、何だかこっちまで照れてしまって、また頬が熱くなる。
だけど、ドキドキしてるのはオレだけじゃないんだと思うと、それだけで嬉しかった。






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