にこめ

いっこめと話は繋がってますが、一応独立させてます


"Voi che sapete che cosa e amor"


双子が12歳になった頃。変わらずバージルは本の虫だったが、一方のダンテは活字を読む習慣がつくようになっていた。流石に兄のように学者が綴るような小難しい本は読めなかったが、最近では物語の長編ものを好んで読んでいる。主人公が女性で、幼少から始まり大人になるまでを描いた女性向けのストーリーだった。女性は人生の中で様々な人物と出会い、やがて運命の男性と結ばれる。ダンテは物語の世界にどっぷりと浸かり、一冊目を読み終えても続きが気になって気になって仕方が無かった。

「いいなあ、私もこんな恋がしてみたい」
「恋?何だ突然」

隣にいたバージルが眉をひそめて言う。恋とは全く無縁の書物を抱えながら。

「いつか素敵な人と結ばれたいなって。バージルもそう思わない?」
「ただの虚構に現を抜かしているヒマなんぞあるか」
「何それ、つまんないやつ!」

そっけない兄の態度にダンテは頬を膨らます。しかしダンテは何を思い出したか「いけない」と本を置き立ち上がった。

「午後から用事があるんだった」
「何の?」
「ママと一緒に苺狩りに行くの。今がとれ頃だって言ってたもん」

苺はダンテの大好物である。いつもより機嫌が良いのはそのせいかと、バージルは納得する。部屋の外から母が彼女の名前を呼んでいるようだ。ダンテは慌てて「はーい」と足早に書斎を退室していった。



「今日は日差しが強いわよ。ダンテ、日焼け止めはちゃんと塗った?」
「うん、大丈夫だよ」
「じゃああなた、行ってくるわね」
「ああ、気をつけて。日が暮れる前には引き上げるんだよ」
「はーい。行ってきます、パパ」

ダンテは麦藁帽子を目深にかぶり、父親に手を振る。手にはバスケット、白い半袖のワンピースを纏い母親と一緒に歩く姿を、バージルは二階の窓から見ていた。さっきダンテが読んでいた本は未だ開かれたままで、そのページにはちょうど挿絵が描かれている。

主人公の女性もまた、ダンテと同様に麦藁帽子と白い服を纏っていた。頬を赤く染めているのは、おそらく運命の異性に焦がれる様を示しているのだろう。


ダンテもいつか運命の人と出会い、結婚するのだろうか。そう考えた途端、バージルの心が少しだけちくりと痛んだ。





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