いっこめ



昼下がり、双子の兄バージルは膨大な本が並んでいる部屋の中にいた。

小難しいタイトルが大量にある書架の隣で、テーブルに座りながら辞書ぐらいあるサイズの本を小さな手で捲り読み続けている。バージルはダンテと同じ、まだ8つになったばかりの幼い子供だがいつからか学問に没頭し始め、様々な事柄を吸収していき、今ではマイナーな論文ですら解する程の頭脳にまで至っている。

バージルは父スパーダと同様、人間を軽く凌駕する程度の悟性を持っていた。父母は双子二人に学問を必要以上に強要する様な事は全くしなかったが、バージルはある日、父の読みかけの推理小説を読んだという些細なきっかけにより、ここまで才能を開花させている。

それとは反対に妹のダンテは学問に興味を示す素振りは無く、ほぼ毎日屋敷の外を駆け回って遊んでいた。お蔭で体力はついても知能はバージルに比べると今一つといった感じだった。

ダンテはここの所退屈であった。どうやら、こんなにも天気が良いのに、バージルが書斎に閉じこもって本ばかり読んでいるのがどうも嫌だった様子だ。遊びに誘っても、「いい」ときっぱりと言われたせいもあり、ダンテは心の中で半分拗ねていた。

しかし今日の彼女は少し違うようだった。良い事を思いついたと目を輝かせ、ダンテは屋敷へ戻って行った。



父母は出かけているため誰も入らないはずの書斎のドアが突然開き、バージルは本から目を外した。

ドアを開け入ってきたのは、書斎とは最も縁の遠いはずの妹。ふふんと優越に浸るような顔で、小脇に本を抱えこちらへ歩いて来る。


「ダンテ?なにしにきたんだ」
「わたしだって、べんきょうするときはあるの」

ダンテも揃って椅子に座り、持ち込んだ本をテーブルを置いた。あのダンテが勉強?とバージルは興味を示し、どんな学問を学んでいるのだろうかと表紙に視線を向ける。





「…べんきょうって……ただの絵本だろ、それ」

バージルは心底呆れた顔でダンテに言った。それを聞いたダンテは無論、大いに憤慨した。

「べんきょうっていったらべんきょう、なのっ!」

ムキになる妹を見て、バージルは仕方ないと言った雰囲気で読みかけていた本にしおりをつけ閉じる。




「ダンテ」
「むむ……、なあに?」
「絵本、おれがよんでやろうか」

その間、2秒位。

「――ほんとお!?」

忽ち上機嫌になるダンテ。同じ年なのにと不思議に思いつつも、可愛い"妹"の為にたまにはいいかと考えるバージルであった。




おしまい



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