「ちわー」
「……今日はアンタ一人?」
「櫂なら後から来るって言ってたぜ」

カラン、と三和は珍しく今日は一人でカードキャピタルに来てた。店内にはまだカムイとミサキとシンしかいない。

「あ、そだねーちゃん、」
「何さ?てか私はアンタの姉になった覚えないんだけど」
「いや、そうゆう意味じゃねぇんだが…」

ミサキに最もなことを言われたような気がした。しかしそれは置いとくことにした。

「この店って猫連れても大丈夫か?」
「大丈夫も何も……いるわよもう」

レジの隣には『店長代理』といつも言われている猫がいる。

「あ、そうだったな」
「何?捨て猫でも拾ったの?そんなのお断りよ」
「いや、そうゆうワケじゃねぇがよ多分櫂のヤツ、」

と、カードキャピタルのドアが開いた。櫂が来たらしい。そして櫂の後ろには、

「やっぱりな!連れてくると思ったぜ。アイチ!」

三和がにかりと笑う。カードのチェックをしていたカムイとシンは手を止めて、櫂の方を見た。

「アイチ…?ってその子?」

ミサキが櫂の後ろに隠れている背の低いアイチを指指して言った。途端にアイチはびくりと身体を揺する。

「おう!犯罪級に可愛いんだぜ!アイチ、隠れてねぇで顔見せろよ」
「………大丈夫だ、」

アイチは少し強張りながら櫂を見た。櫂はそんなアイチの頭を少し撫でて言う。

「あ、あの櫂がな、撫で、」

ますます皆興味を持ち始めた。

「あ、あの、アイチと言います!よ、よろしくお願いしましゅ!」

か、噛んじゃった!!
アイチは前に出て皆にぺこりとお辞儀をした。しかし最後に思い切り噛んでしまい口を塞ぐ。

「アイチ噛んじゃったなー。でもそこが可愛いよな!」
「…黙れ」

アイチはまだ下を向いたままだった。するとミサキが立ち上がりアイチの傍に寄る。

「…私、戸倉ミサキ。よろしくねアイチ」

滅多に見せない笑顔をアイチに見せた。ふわり、と優しく微笑み手を差し出す。アイチはそれに気付き、顔をゆっくりと上げた。

「ちょ、ずりーぞ!俺は葛木カムイだ!よろしくお願いしますアイチさん!」
「わわ、皆待って下さい、僕はここのお店の店長をやっていますシンと言います。よろしくお願いします」

皆、アイチの健気さに心討たれたようだった。アイチも皆のその様子に少し緊張が溶けたのか笑った。

(((か、可愛い!!!)))

「で、そのさ、いきなりで悪いんだけどさっきから気になってたんだけど……」

ミサキが恐る恐る指を指して聞く。それに合わせて皆目を合わせる。

「それって…尻尾?」

ゆらり、とアイチの髪と同じ色の尻尾が揺れた。

「た、確かに…!それって尻尾ですか?」
「…ああ」
「じゃ、じゃあその帽子を取ったら耳があったりしますか?アイチさん」

櫂に話し掛けるのが嫌だっのか今度はアイチに聞く。アイチは帽子を被っていた。

「え…と、櫂くん、」
「別に構わない」
「お前ら夫婦かよ…」

アイチが帽子を取るとそこには頭からぴん!と生えた猫耳があった。尻尾と同じく髪と同じ色をした耳が立っている。

「かっわいいよなー」
「櫂…アンタこうゆう趣味があったのね。だからいつも無愛想で、」
「変な言い方をするな!」

きょとん、とアイチは首を傾げる。その度に尻尾はゆらゆら動き耳もぴくりと動く。
カムイはその様子にごくりと唾を飲んだ。

「あ、あの、アイチさん…良かったらその耳……触らせてくれませんか?」
「!!?」
「(うわぁ。今櫂の奴すごい顔したぞ…)」
「耳…?別にいいよ?」

ぴくりとまた耳が動く。カムイはアイチに近付き恐る恐る手を伸ばした。きゅっと掴むとフワフワした感触。綿、なんかよりも柔らかいとても気持ち良い感触……。

「ほ、本物だ…」
「あー羨ましー…。次俺にもな!」


フワフワと触るカムイを見て、三和も触りたくなってしまう。

「てか、櫂この子どうしたのさ?」
「どうしたって…拾ったが」
「拾ったんですか?!」
「シンさんうるさい」
「怒りんぼ……」

櫂は時折、アイチの耳を見る。先程からカムイと三和が交代交代で触っている耳を。

「アンタ…まさか誘拐犯?」
「違う!そもそもアイチは……」

ぴたりと止まった。そして櫂はふと、考えた。
アイチは……、
俺はアイチのことをまだ全然知らない。何故あの日、あの時、あの場所にいたのか。そして、アイチの実態すら。

「…別に今答えなくてもいいけどね。ただ心配になっただけ…。世の中には珍しいものもいたものね」
「ああ、」
「う〜ん。ミサキはどうやらアイチくんを気に入ったのですね」
「シ、シンさんは黙ってて!」
「店長です!」
さわさわ。
「おぉ〜!まじヤバいなこれ!フワフワ感すげぇ!」
「だよな!このフワフワ感が堪らない!」

先程からずっとカムイと三和に耳を触られアイチは少しくすぐったい感じがしてきた。と、いうよりも少し強く触られるとゾクリとしてしまう。

「ぅにやぁ…!」
「アイチ猫っぽいな!てか…」

いやいや、と三和は頭を横に振る。三和は気付いていた。いわゆる耳はアイチにとって性感帯なのだと。ズレているカムイにはまだわからないが、多分しっぽも同様に。その証拠にアイチは真っ赤になっていた。
呼吸も少し荒い。何かに耐えるように顔を真っ赤にしてプルプル奮えていた。しかしそれを見れば見るほど弄りたくなる
三和のS度が高まっていく。

「み、三和く、ん…それくすぐった…!!」
「くすぐったいだけか?なんなら尻尾も弄ってや、」
「いい加減にしろ三和」

櫂に止められた。声はとても低くて三和が振り向けば顔には如何にも『それ以上触ったら殺す』とでも書いてあるような状態。

「あははは…、悪い悪い、ついアイチ見てるとイジメたくなんだよ。でも助かったー。櫂が止めてくんなかったら俺アイチのこと押し倒してたわ」
「三和……ドラゴニック・オーバーロードに焼かれるか、バーに切られるか…選ばせてやる」
「ちょ!?櫂サン!?」

しかし櫂はアイチの腕を引くと、

「…アイチ、お前はどれが欲しい?」
「え…?」

アイチの目の前にはヴァンガードファイトのカードのデッキがずらり置いてある。

「か、櫂くん、これって櫂くんのやってる…!」
「ああそうだ」
「…なるほど。アイチくんこの中からアイチくんが気に入ったデッキを選んで下さい!」

シンはぱっ、と手を出した。アイチは顔を輝かせて沢山種類のあるデッキを眺め
ている。

「え、と…」

ぴょこぴょこと耳が動きながら尻尾が左右に振られる。
かげろう、ロイヤルパラディン、オラクルシンクタンク、ディメンジョンポリス、ぬばたま………。と、まだまだ沢山のユニットがある。アイチはふと、ポケットの中からカードを取り出した。

「おや、アイチくんそれはブラスター・ブレードじゃないですか」
「あ、あの!このデッキが欲しいです!」
「わかりました!ロイヤルパラディンデッキですね。アイチくんにピッタリです」

はい、とシンはアイチにロイヤルパラディンデッキを渡す。アイチは嬉しそうに受け取る。

「あ、ありがとうございます!」
「いいえ、あとお金はいいですからね櫂くん」
「…なぜだ」
「こうやってヴァンガードの楽しさを知っていく!そうゆう人は僕は大歓迎です。だからこれは僕からのプレゼントなんです」

貰ったデッキを嬉しそうにアイチは眺めた。
キィイイン―――、

「!!」
「どうしたアイチ?」
「う、ううん!何でもないよ!」
「…そうか、」

また……
あの感じが……。

「アイチ帰るぞ」
「え、ま、待って櫂くん!」
「何だよもう帰るのかよー」
「また来て下さいね!アイチさん!」
「うん!ありがとう、」

アイチはまた皆にぺこり、とお辞儀をしてカードキャピタルを出た。

「いやー…しっかし驚いたけど…」
「な!可愛いかったろアイチ」
「に、しても不思議だった」
「そうですね〜。なんせ猫の耳としっぽが「櫂の性格がアイチさんに対してだけ異常だった!」
「だよな!アイチ過保護っつうか独占欲がハンパないというか…」
「ええ…」
「あれそっち!?」

****

「櫂くんありがとう!」
「何がだ?」
「いろいろと!沢山の人と知り合えて、それに…カードまで…!」
「カードはあいつからのプレゼントだろう。俺は何もしてないが…」
「ううん!そんなことないよ!あ、あのね櫂くん…」
「なんだ?」

家に帰るともう夕方だった。電気をつけない部屋の中がオレンジ色に染まる。

「僕に、ヴァンガードのことを教えて欲しいな…って、」
「…当たり前だ。俺以外に誰が教える」
「本当!?ありがとう!櫂くん」

思わずアイチは櫂に抱き着いた。櫂はぴしりと固まる。

「!!ご、ごめん櫂く…!」

はっと気付いたアイチは顔を真っ赤にしながら櫂に離れようとした。が、

「か、櫂く…」
「……柔らかいな」
「にゃッ!?」

途端にアイチは身体をびくりと揺らした。すとん、と櫂はアイチを抱きしめたままソファーに座った。する、と尻尾を撫でる。

「あ、あの櫂くん!離れ、にゃう!」
「……やっぱり連れて行くんじゃなった」
「何か、言った櫂く、ん」
「いや別に」
「っ〜〜…!!」

遊んでいるのか、するりと尻尾を何度も撫でられた。アイチにはまだよくわからない感じがする。ふと、カードキャピタルのことを思い出した。
そういえば櫂くん、皆が触る僕の耳見てたなぁ…。もしかして櫂くんも触りたかったのかな?でもこれはしっぽだけど…櫂くんにも子供っぽい所、あるんだな……。
少しおかしくなりアイチは笑った。そしてゆっくりとまぶたを閉じた。

櫂くんといると暖かい……
でも僕の心臓がうるさいな。さっきからとまらない。櫂くんといると凄くどきどきするんだ……。







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