「いってらっにゃい!櫂くん」
「ああ、行ってくる。俺が帰ってくるまで家を出るなよ」
「大丈夫だよ!毎日聞いてるし…!」
「……そうか。わかった。じゃあ、夕方な」
「うん!」


―――ばたん、
ゆっくりと玄関のドアが閉まる。櫂くんが出て行った後も手を振り続けた。


「…にゃあ」


櫂が家にいた時とは違い、ピンと立っていた耳もしっぽもしおれた。


「テレビ、テレビ……」


家に一人にいるときはとても怖く感じる。思い出したくない事を思い出してしまう。
せめて、それを紛らわそうとテレビを付ける。テレビでは知らない人達がいっぱいいる。初めて見た時は驚いてテレビ画面を叩いた。
誰か閉じ込められてるの?と聞いたら櫂くんは少し驚いた顔で笑った。その時の櫂くんの顔を見た時何故だか苦しくなった。
あれは一体なんだったのかな。


「ブラスター…ブレード…」


櫂くんから貰ったカード。白く輝く光の騎士……。


『今注目話題!!ヴァンガードファイト!』
「にゃっ!?」

突然テレビから聞こえた。

『さぁ!今そこでこの番組を見てる君!君もヴァンガードをしてみよう!』
「ヴァンガード…?」


びしり!と指を差し出すテレビの中にいる人。その人の手には僕と同じカードが。でも描いている絵が違うけど…。


『やり方を知らない?大丈夫!この番組を見れば初心者の君も丸わかり!』
「まるわかり…」

途端にふわりとしっぽが揺れ動く。

『そ〜の前に!!な、な、なぁーんと今日はあのヴァンガード会の王者にしてFFAL4のぉ〜!』
「ふ、ふぅにゃいたー…言い辛いよぅ…」
『あ、の!雀ヶ森レンさんに来て貰いましたぁああ!!』


きーんと良く聞こえる耳によく響く声で叫ぶ。痛いよぅ、
すると声の大きい人からカメラは変わり、赤い髪の毛の人にカメラは向けられた。
何処か怪しげな笑みを浮かべながら赤く透き通る瞳をしてる…。


「雀ヶ森…レン…さん」


まるでテレビからこちらをじっと見ているかのように僕の瞳と雀ヶ森レンさんの瞳が合う。


『……弱い人は弱いまま。強いと安心してる人も……所詮無駄な足掻き。っはははは!!まぁせいぜい頑張るんですね』
『え?あ、あのレンさん?』


途端にそれだけ言うと何処かに行ってしまった。


『あ、そうそう。一つ言い忘れていました。…僕は捜しモノをしていましてねぇ……』


マイクなんか持たなくても声が大きい人から雀ヶ森レンさんはマイクを奪い取った。


『僕には素晴らしい力があります。………そう、例えばこんな力が…』


途端に雀ヶ森レンさんの赤い瞳が光った。吸い込まれそうな感覚……。
キィイイイィン――……。


「ふ、にゃあ…!!」


ズキリと酷い痛みが襲う。何だろうこれは……。嫌だ、思い出したくない…!怖い、怖い!櫂くん…!!


『……おや…?おやおや…。これはこれは…』
『ど、どうしたんですか?』
『いえ。別に貴方には関係ありません。………そうか』
『えぇええ!?レンさんまだ質問コーナーとかが…あ、一旦CM入ります!』


痛い、痛い、痛い!!!
あの瞳は見たことがある。あれは――……。
プルルルル――…、


「うにゃ!」


電話の音だ。この前櫂くんに電話の出方を聞いた。電話なら出ていいと、教えて貰った。櫂じゃなかったら、切れと言われていたけど。


「もしもし…?」
『……アイチ』


この声は櫂くんだ!!
途端に耳としっぽが立ち揺れる。


「ど、どうしたの櫂くん?」
『…いや別に何でもないが…今日は何が食いたい?』
「あ、えっと…」
『それか帰ってから一緒に買い物に行ってもいいが…』
「い、一緒に行ってもいいの?」
『…ああ、』


嬉しい。櫂くんとお買い物が出来るなんて……。


『じゃあ、今日は早めに帰る』
「う、うん!気をつけて帰ってきてね」
『ああ、後でな…』
「うん」


がちゃりと受話器を置く。しっぽがユラユラ動く。いつの間にか頭が痛いのも治っていた。
櫂くんの事を考えると顔が熱くなる。どきどきする。こんなのは初めてだ。もしかして僕は病気なのかもしれない……。
どど、どうしよう〜〜!!


「そういえば……櫂くんも確かヴァンガード…?のカードを持ってたなぁ」


ちらりとテレビを見た。いつの間にかCMは既に終わっていて説明を始めていた。


「櫂くんも…ヴァンガードするのかにゃ…?」


手に持っていたブラスターブレードを見る。


「僕も…ヴァンガードをしたいなぁ。そうすれば櫂くんといっぱいお話できるだろうし…」

―――マイ ヴァンガードよ

「にゃっ?!」


くるりと後ろを振り向く。誰もいない……。多分テレビの声かな、と思いまたテレビを見た。


「へへっ、夕方には櫂くんとお買い物〜」


この気持ちの意味をまだ僕は知らない。ただ、傍にいたい。一緒にいてくれれば……。
もっと櫂くんに近付きたい。
『化け物』と罵られていた僕には気付いてはいけない感情だったんだ。櫂くんと僕は違うんだ。
そう。僕は気付かないまま…。後悔するのが遅すぎると知るのはもっと後だった。

――…マイ ヴァンガードよ
我をコールせよ…――






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