「……これがアイチだ」
「な、ななな!!!何だよコレ!?櫂何やったんだよ!犯罪だ!めっちゃ可愛いじゃねぇかよ!!」
三和が家に来た。
アイチの服を買いに行こうにもアレだったので仕方なく、仕方なく(大事だから二回言った)三和に聞いた。するとちょうど甥っ子にアイチ位の背丈の奴がいるらしく、服を頼んだのだ。
一応アイチには言っておいたが……。しっぽが震え、耳が垂れ下がっている。
「うわぁ〜!確かに猫だが猫じゃない!最初櫂から聞いた時は意味わかんなかったけど今はすげぇわかるぜ!」
一人で楽しそうにペラペラ話す。お陰でアイチは固まってしまったじゃないか。
「おい三和」
「うげ!わ、悪かったって!睨むなよ怖いなぁ〜……。え、とアイチだっけ?俺は三和タイシだ。よろしくな!」
お得意のスマイルでニカッと笑ってみせた。アイチは少しだけ緊張が解けたのかゆっくり足を出して来た。
「よ、よろしく…お願いします、にゃ……」
「!!!」
垂れ下がっていた耳がぴょこりと立ち上がった。
「か、かわ…可愛いなぁ!!!」
「にゃっ!?」
「おい三和!!」
堪らず三和はぎゅうっとアイチを抱きしめた。びっくりしたようで今度はしっぽと耳が同時にピン!と立ってしまう。
「畜生羨ましいぜ!」
「いいからアイチを放せ!」
「うおっ!」
バッと櫂は三和からアイチを奪い取った。その行動に一瞬三和は驚いたが、その後にやりと笑い出す。
「ふんふんふん…」
「…なんだ」
「いえ別に〜。ただ櫂がそんなに執着するなんて珍しいなーと思いましてね」
「な、」
「ただ櫂は犯罪者の臭いがするんだよな〜。だってそんな童顔な子に自分のシャツ着せて猫耳にしっぽだろ?」
……なんでこいつまで同じ事を。いや、自分でもなんとなく危ないような気はしてたが他人に言われると…。
「櫂くん、」
「な、何だ」
「うんとね…あの、ちょっと苦しいかなって…」
「!!」
アイチに言われて気付いた。どうやら俺はさっきからアイチをぎゅうぎゅう抱きしめていたらしい。
「青春だな〜」
「…早く服を寄越せ」
「人使い荒……」
ため息を尽きながらアイチの頭をわしゃわしゃと撫で櫂に服の入った紙袋を渡した。
「み、三和くんありがとう」
「!! か、可愛いなアイチは!マジ本当に可愛い!櫂のトコじゃなくて俺のトコに来な「アイチ着替えてこい」
「うん!」
櫂から服を渡され嬉しそうにしっぽを揺らしながらパタパタと走って行った。
「やっぱ、何だかんだで気に入ってんだなアイチの事」
「……だから何だ」
「いや〜何でも〜」
「ちっ」
すると、がちゃとゆっくりドアが開いた。どうやら着替え終わったようだ。
「おっ!似合ってる似合ってる!ちょっとデカかったみたいだけど……でも似合ってるぜ!アイチ」
「みゃうっ!あ、ありがとう」
「どう致しまして」
しかし櫂はどうやら三和とアイチの二人のやり取りが気に入らなかったようで……。
「げっ。睨むなよ!」
「……」
「ったくどんだけ独占欲ハンパないんだか…」
「礼だけは言う。後はもう帰っていいぞ」
「お前鬼か!畜生また来るからな!」
「もう来なくていい」
「アイチまたな!」
「う、うん、またね三和くん」
仕方ないなーと三和は櫂の家を出た。アイチはどうやら溶け込んだらしく笑っていた。しっぽも揺れてる。
「み、三和くんいい人だったね。服もくれたし…!」
「……そうだな」
「櫂くん…?」
不機嫌そうに応えた櫂にアイチは不思議に思った。
何処か悪いのかな……?
しかし鈍感な猫アイチには全くわかっておらず、うーんと考えてみる。途端に何か思い浮かんだのかぱぁっと顔を輝かせた。
「櫂くん、櫂くん!」
「なんだアイ、チ…?」
アイチは櫂の服の裾を引っ張り呼んだ。櫂の顔が近くに来た途端にアイチは櫂に近づき……。
ちゅっ。
頬に何か触れた。柔らかいアイチの―――。
「!?」
「昨日ねテレビで見たの!ほっぺにちゅうして元気になってた人を!」
「な……」
アイチは一体何を見たんだ…!しかも意味もわからずにすることじゃない、いくら頬とはいえ…!!
「櫂くん熱あるの?真っ赤だよ」
「…うるさい」
「ふにゃ!」
仕返しとばかりに櫂はアイチにキスをした。しかしそれはアイチがやった頬では無く、唇に。
「……何故赤くなる」
離れればアイチは顔を真っ赤にさせていた。さっきは赤くなどなってなかっただろうが。
「だ、だって!く、口にするのは…その、恋人同士がするって言ってたか、ら!!」
だから一体何を見たんだ。しかもなんでそこまで知っている。涙目になっている。……そんなに嫌だったのか。
「これは……外国の挨拶だ」
「外…国?」
「ああ。違う国ではこうやって挨拶をする。アイチがやったのも一緒だ」
「……挨拶……そっか」
アイチはしゅんと耳を下げた。なんだ?嫌だったんじゃないのか。なんで落ち込んでいる。
「ふみゃ!?」
「……行くぞ」
アイチに帽子を被せた。手を引く。まず考えるのはやめだ。
「ど、何処に?」
「晩飯の食材を買いにだ」
「僕も行っていいの?」
「当たり前だ」
「!!」
引かれていた手をアイチはきゅっと握った。櫂は驚いたようだったが握り返した。
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「…好きなのか」
「うん。櫂くんが買って来てくれたやつだから」
スーパーで晩飯の食材を買い終え、櫂とアイチは道路を歩いていた。アイチの手には鯛焼きがある。
「そうか、」
「櫂くんは食べないの?」
「ああ、俺はいらな……」
アイチを見れば手を挙げて櫂に食べかけの鯛焼きを差し出しているようだった。うるうると見ている。
―――ぱくり
「美味しいね櫂くん」
「ああ、そうだな」
アイチが笑うから思わず少し笑ってしまった。するとアイチは顔を赤くしてパッと違う方を見てしまった。しっぽがユラユラ揺れている。
そういえば耳は帽子で隠したがしっぽは隠すのを忘れていた。
……まぁいいか。どうやら自分はアイチのことを放せなくなってしまったらしい。
俺はアイチが…―――。
ただオレンジ色の夕日が二人の影を照らしていた。