「ほらよ、タオル」

ぽす、とタオルを投げた。
あの場所から俺のマンションまで近くてよかった。流石に雨の中、猫の耳としっぽを生やした奴を引き連れるのは少々勇気が必要だと思う。
ぽたぽたと髪から雫が落ちる。タオルをキャッチし持っているのはいいものの、首を傾げ持ってるいる。まさか拭き方が知らないのか。

「はぁ…。おい、こっちにこい」
「にゃ、」

手を引いた。先に風呂に入れよう。泥だらけな事に今更気付いからだ。

****

きゅっ、っとコックを捻りお湯を出した。丁度良い熱さだ。ついでに俺も入る。寒かったから。

「あ、熱いよぉ!にゃあ!」
「!」

途端にシャワーを掛けたらいきなり暴れ出した。熱い熱いと叫ぶ。おかしい、そこまで熱いとは思わないが…。仕方ない、とシャワーをもう少しぬるくしする。

「みゃあ」
「おい、暴れるな、」

丁度良い熱さだったらしいが、今度は頭を左右に動かし水を飛ばす。

「……ど…して、ぼくを拾ってくれたの…?」
「さぁな。俺もよくわからない」

暴れなくなったかと思えば、変な事を聞いてきた。俺もよくわからない。

「なんかいい匂いするね」
「シャンプーだろ」
「しゃんぷー?」

ついでに頭も洗ってやる。耳が少し邪魔だな。

「洗いながすから耳抑えとけ水入るぞ」
「う、うん。わかった」

ついでに目もな、と言ってお湯をかけた。

****

「…少しデカいか」

風呂から上がり、服はあんなボロボロなのを着せれる訳がないだろうと捨てた。かと言って服を着せないと風邪を引く。だから俺の服を貸したのだが…。

「ありがとう。ぼくはこれでもいいよ。嬉しい」
「……ならいいが…」

しかし肩からずるりと服が落ちる。……明日でも買いに行くか。

「お前、いつから食べていない?」
「え…と…、三日くらい前…かな」

そんなに……。
なんでそんな事が合ったのか、実を言えば聞きたい事は山ほどあった。しかし一気にいろいろ聞くのもあれだ。無理に聞く必要もない。

「何が食べたい」
「え?」
「作る。だから早く言え」
「うぅ……じ、じゃあ出来たら…お、オムライス…」
「オムライスだな。わかった」

魚じゃないのか。なんて言うツッコミは一応やめた。
ぱた、ぱた、ぱた、
しっぽが絨毯に当たりリズム良く動く。時折、こちらをチラチラと見てくる。すると今度は歩いてきた。

「……まだだぞ」
「う、うん」
「……」

何が面白いのか嬉しそうに俺が作るのを見てくる。不思議だ。

「……あ、あの!」
「なんだ」
「あ、その…えっと、」
「……」
「…ま、え……」
「前?なんだ前がどうした」
「ち、違くて!な、な、名前を教え…て貰いたいな…って」

横目で見れば顔を真っ赤にして俯く。指をくるくる動かしている。

「名前?」
「にゃう!ごめんなさい!」
「…何故謝る」

何故か驚き、謝ってきた。まだ……俺が怖いのか。

「…櫂」
「にゃ…?」
「櫂トシキ。名前、」
「!!」

忙しい奴だな。表情がコロコロ変わる。だが、見ていて飽きない。

「か、櫂くん!櫂くん!」
「ッ…!」

いきなり呼ぶものだから驚いてフライパンを危なく落としそうになった。ぴょんぴょん跳ねながら嬉しそう呼ぶ。なんだこいつは……。思わず可愛いなどと思ってしまった。

「お、お前は…!」
「うにゃ?」
「お前は何て言うか聞いている!」
「ぼ、ぼくはアイチ、アイチって言うの!」

ふにゃりとまた笑う。良く笑う奴だ。

「アイチか……」
「櫂くん、櫂くん!」

無意味に名前を呼び今度は抱き着いてきた。
いきなりそう言うことをするな!

「お、おいアイチ、」
「僕、人は皆怖いものだって思ってたけど櫂くんは優しいね、櫂くん僕を拾ってくれてありがとう」

長いしっぽが揺れる。
俺はなんとも奇妙な生き物を拾ったらしい。色の無かった俺の世界に色がつき始めた気がする。それは、このアイチのせいなのかもしれない。ただ、不思議と嫌というわけではなかった。
アイチのせいで顔がつい緩んでしまう。こんなところ三和に見られたらなんて言われるかだいたい想像が出来てしまう自分が全く嫌だ。





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