ぱしゃん、ぱしゃん、
水溜まりを歩く度に、雨音と一緒に水が跳ねる。傘なんて持ってるはずが無いからずぶ濡れだ。


「にゃー……ん…」


ふと、雨音よりも鮮明にはっきりと猫の鳴き声が聞こえた。
猫……?
前を見れば電柱に寄り添うようにしてしゃがみ込む人がいた。猫なんて見当たらない。と、言うよりもなんでこんな所に人なんか――……。


「おい、」


ゆっくりと歩いて近付いた。よく見れば長い猫のしっぽがあるじゃないか。いや、しかし電柱が隣に合って邪魔で見えない。


「こんな所で何をしている」


もう一度声を掛けた。しゃがみ込む奴の目の前に立つ。するとそいつはゆっくりと顔を上げた。透き通るような大きな瞳で、青い髪の毛。
そして頭には猫の耳が……。

「!?」


頭に猫の耳?!馬鹿な。しかしそいつの頭にはしっかりと耳がくっついている様だ。おまけに長いしっぽまである。
なんだこれは。夢でも見てるのか俺は?


「……だ…れ……?」


するとそいつは口を開いた。よくよく見ればそいつには耳やしっぽが生えていたが、顔は泥で汚れており服はボロボロだ。


「……君もぼくを殴るヒト?蹴るヒト?……にゃあ…」


ふるりと長い睫毛が揺れ、身体をカタカタ揺らしている。寒いのか怖いのか震えていた。


「…別に俺はそんな下らないことをする奴じゃない」
「ふにゃあ……?」


こてん、と首を傾げた。なんだこいつは。猫か人間なのかどちらなのか?いや、もしかしたらどちらでも無いのかもしれない。


「風邪、引くぞ。此処にいると」
「…かぜ…?」


言葉が通じてるのか通じてないのか――……。いや、それよりもなんで俺はこんな奴と話している…。


「別にお前が此処にいたいなら何も言わない。好きにすればいい」
「…にゃあ……」


どれくらい前からいたのか服が水分を良く吸っているようだった。まだ震えている。傷だらけだ。いつもの様に気にもしないはずなのになんで俺はこんな奴と話してる?
雨が一層強くなる。
目を逸らし、家へ帰ればいいじゃないか。俺には関係ないことだ。なのに………。


「……お前、独りなのか?」
「…うん」
「家は?」
「無い」
「…家族は?」
「わからない」


「………俺と来るか?」


気付いた時には言っていた。すると俯いていた猫のような人間のような奴が顔を上げた。
大きく目を開き、丸くさせてる。驚いたのか… いや、実際一番驚いたのは俺なのだが。

「……」
「俺は殴ったり、蹴ったりなどということはしない」
「……でも…」
「…このままじゃ風邪を引く」

手を差し出した。

「……ふ…にゃあ…」

垂れ下がり、水分を吸い取り元気が無かったしっぽがパタパタ動いた。そして嬉しそうに笑い俺の手を取った。
そして俺の世界が360度変わり始めるのだ。






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