ミサ♂アイ♀


「なぁ、アイチ、デートしようよ。今からさぁ」
「ミ、ミサキさんダメですよ、だって今はバイト中でしょう…?」
「むぅ…」

アイチが困ったように言えばミサキは眉を潜める。それにアイチは今、カムイとファイト中なのだ、カムイが許すはずがない。現に今だってミサキを「アイチさんとのファイトを邪魔すんじゃねぇ」と言いたそうに見ている。だがアイチに断られたミサキは面白く無い、とばかりに読み掛けていた本をカウンターに置いてばたりとうつ伏せになった。
せっかくアイチが宮地学園に来てくれたのに、一緒に帰っても向かう先はいつも此処だ。そのままアイチと放課後デートをしたいのに、これじゃあ何の進展もないじゃん。櫂よりも先にアイチをゲット出来たのにさぁ……。

「ミサキ〜、ちゃんと仕事して下さいよ、ほら皆さんが困ってるじゃないですか…」
「はいはい、すいませんねー…っと」

むくりと起き上がればいつの間にかレジの前にはカードを買いたくて仕方ない子供達がいた。少しばかり悪びれた様子で、ごめんね、と謝ると会計をし始めた。頼まれたパックが途中で無くなった事に気が付くと、シンさんちゃんと補充しとけよ、とため息交じりに呟き棚の上に乗っていたBOXを椅子を使わずに取る。これでもミサキはクラス…と言うか宮地学園の中で三番以内に入るほど背が高いため、こうゆう時だけは背が高くてよかったと思うのだ。

「アイチさん?どうしたんですか?」
「! ご、ごめんね、何でもないよ!えっと、トリガーチェックだっけ?!」

わたわたとしながら振り返り、山札の上からカードをめくる。しかしあまりにも挙動不審なアイチを見て不思議に思っていると、案の定ばさばさと持っていた手札を床に落とし出す。そうすればカードはテーブルの下に落ちてしまい、顔を真っ赤にしながら座っていたイスから降りて、テーブル下に手を伸ばした。そんなアイチを見ていたミサキはブっと吐き出しそうになった。あろうことかアイチのスカートはめくれてパンツが丸見えだからだ。しかしそれに気付いたのは、無論ミサキだけではない。店内にいたシンや三和、櫂だって気づいていた。

「シンさん何見てんだよ、ドクズ!」
「いだぁあ!?」

バリッと店長代理の強烈な一撃がシンの顔面をクリティカルヒットし、床を転げ回る。ついでに櫂と三和をじろりと見ればさっと二人は目を逸らした。
そんなミサキの気苦労も知らずに、テーブル下からひょっこりと顔を出し、ようやくとれたらしいカードを持ちながら笑みを浮かべるアイチ。ごめんね、と照れながらカムイに謝るとファイトを再開させた。

「…ピンク」

思わず思っていたことが声になる。思っていた、と言うよりも視界から脳に行き、最終的に口に辿り着いたわけなのだが。そろそろ高校生らしく、デートをしたいものだ、と思うのだが中々上手く行かないのが現状。手は何度か繋いだがキスなんてまだしてないのだ。本当はミサキだって、襲ってやりたいくらいなのにアイチが嫌がるところなんか見たくないから、理性を保ちながら気をつけてはいる。しかし、せめてデートくらいはしたい。バイトの日付、開けて貰おう…そう思っている内に外は暗くなっており、時計を見れば19時を回っている。そろそろ閉店か、それは皆も思っていたらしく片付けに入っていた。

「アイチ〜、もう暗いし送ってくぜ」
「アイチは俺が送っていくからお前は先に帰れ」
「三和くん、櫂く、っわぁ!?」

言い争いを始めた三和と櫂を横目に、ミサキはぐいっとアイチの腕を掴むと「アイチを送るのは、俺の役目だから」と言い残して外に出て行ってしまった。まるでいいとこ取りされた気分になった櫂と三和は悔しそうに後ろ姿を見ていた。シンもやれやれ、とばかりに嫉妬深くそだったなぁ、と親父くさいことをを呟きながら店内の後片付けを始めた。

ぐいぐいと引っ張る腕に、アイチは何度も足が縺れて転びそうになった。しかしミサキに何度か声を掛けても反応はなく、アイチの帰路をすたすたと歩いて行く。右手に持った学生鞄はぱたぱたと揺れて、思わずごとっ、と地面に落としてしまった。その音にようやく気づいたのか、ミサキはぱっと足を止め、アイチの方に振り向いた。手は意図も簡単に離れ、地面に落ちた鞄を拾えばミサキは持ったまま。

「ミサキさん、かば、んッ?!」

鞄を拾い立ち上がったミサキに声を掛けた途端に、頭を手前に抑え付けられてアイチの薄く開かれた桃色の唇はミサキによって塞がれてしまう。何が起きたのか訳がわからず、息苦しさにミサキの胸をドンドンと叩けば仕方ない、とばかりに唇は離れた。

「そうゆう時は鼻で息するんだよ」
「そんなこといきなり言われても……は、初めてだから…わからない、です、」

当たり前のように言うミサキに、アイチはなんだか恥ずかしくなって口ごもった言い方で返した。しかし、そんなアイチの反応にくすりと笑い唇をなぞれば、アイチはくすぐったさに肩を震わせる。先ほど触れたミサキの唇のことを考えて顔が熱くなる。

「良かった、いきなりしたからアイチ、嫌がって逃げちゃうかと思った」
「に、逃げたりなんかしません!だって、ミサキさんとの、その、き、す…嫌じゃ無いですし……」

むしろ好きです、そんな蚊の鳴くような微かな声で言ってもミサキの耳には、はっきりと確かに聞こえた。

「いろいろと考えてたんだよ。アイチとデートしたいな、とか、手繋ぐだけじゃなくてそれ以上にもっと上のこととかさ」
「上の…こと?」

きょとん、とするアイチの耳元で囁くように教えてやればボッと頭から火が出るようなくらいに真っ赤にさせて目を左右に泳がせた。それでも否定はしないアイチを見て思わず本気で考えてしまう。
今更ながら、じろりと上から舐めるようにアイチの身体を見れば外は暗いため、少々分り辛いが細い身体には余計な肉などなく、あるとしたら胸だ。一般の高校生よりは遥かに成長しているそれは今でも現在形。

「ミサキさんのえっち!!」
「俺だけじゃないよ、アイチを見てるクズ共はみーんな、思ってるんだ。まぁ誰にも絶対に渡さないけど」

ぎゅうっと抱きしめればアイチの小さな身体はミサキにすっぽりと埋まってしまう。カードキャピタルを出てからさっさと家に帰ろうとはしないこの二人を見たら、誰でも邪魔をしたくなる雰囲気だ。
アイチはぽかぽかと温かくなり嬉しそうに、ふにゃりと笑うとミサキの服を引っ張って、もう一回、と上目遣いで言えばそれに応えるようにもう一度唇を重ねた。
そんなこんなで、やっとアイチを家まで送ったミサキはまた最後に、と本日一体何回目かわからないキスをして帰って行った。恥ずかしいけど、嬉しい気持ちでいっぱいなアイチがぱたぱたと部屋に入れば、おかえりなさい、と母から言われる。エミもそれに続けておかえり、と言う。

「それはそうと、家の前でいちゃいちゃするのやめてよね」
「?!」
「見てるこっちが恥ずかしいんだから、」

と、いつの間に見ていたのかわからないがエミにそう言われてしまった。立ち尽くすアイチに呆れながら、早くお風呂に入って、と着替えを押し付けたエミはアイチがお風呂から上がっても少々ご機嫌ナナメ で、エミのそんな様子に不思議そうにしながら、そっと指先で触れた唇は今だ熱いままだった。



指先から伝わるメソッド
130126


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