「コーリンって、変なところで女の子だよねぇ〜」
「はぁ?」

どぽどぽと煎れたコーヒーの中に角砂糖を入れる手を止めた。見ればレッカがテーブルに肘をつきながらにやにやとコーリンを見ている。眉を潜めて「いきなり何よ」と言えば「べっつにぃ〜」と後味が悪い言葉が返った。コーリンはそんなレッカにむっとすれば角砂糖をつまみ、コーリンのコーヒーカップの中にぽちゃん、とまた一つ入れた。コーヒーの熱さにゆっくりと融ける角砂糖はどろりとコーヒーの表面ににわかに膜を張る。

「私もコーヒーには砂糖いれるけど、コーリンほどじゃあないなぁ〜」
「甘い方がいいじゃない」
「へぇ、だからコーリン、あの子にも甘いんだね」

ぶっ、と思わず吹き出しそうになる。この小悪魔め、とばかりに真っ赤になったコーリンはレッカを見るがケラケラとレッカは笑い怒られる前にスイコの方へ逃げてしまった。
甘い、とばかりに声に出せば浮かぶのは先導アイチ。なんであいつが、と頭を左右に振るが離れない。角砂糖は既にどろどろにコーヒーの中へ溶けており口に含めば砂糖の甘さがじわりと咥内に広がる。レッカに毒されてしまい、もやもやとする心境のままでは落ち着かなくなりガタッと椅子から立ち上がると街に出た。少し外の風を浴びよう、と出たが思いの外、街を散策してみたくなり歩き始めた。コーリンの自慢のさらさらな金髪が風に乗り波打つ。空を見上げるとふわりと可愛らしハートの形をした風船を見付け、思わずほほ笑む。

「あーゆう子供染みたもの好きそうよね」
「誰がです?」
「もちろん、アイ――…!?」

その途端にコーリンは声にならない悲鳴を上げた。隣にはアイチがいたからだ。不思議そうにぱちくりと目を数回瞬きしながらくすり、とアイチは笑う。どきどきとする心臓を抑え、コーリンは「なんで此処にいるの」と言えばアイチは「たまたまです」と返す。逆にアイチからは「コーリンさんは?」と聞くものだから、コーリンまで同じように「たまたまよ、」と咳ばらいしながらアイチにそう言った。

「コーリンさん、変装とかしないんですか?アイドルなんだし目立つような…」
「一々外に出るときに変装なんてしないわよ。それにいつもはバイクだから関係ないし」
「バイクに乗ってるコーリンさん、かっこいいです」

日だまりのような笑顔を向けて話すアイチに「う゛っ」と眩しいものをみるように後退してしまう。冬の外にいるにも関わらず、コーリンの耳はみるみる真っ赤になり辺り一面の雪を溶かすようだ。
そんなお世辞言ったって別に嬉しくないわよ、と愛想のないことを言ってしまい心の中では「何言ってんの!嬉しいわよ!!」と一人葛藤をしていた。アイチの前だと上手く話すことの出来ないコーリンは意外とセンチメンタルなのだ。ガラスのハートでもある。

「そうですよね、女の子なのにかっこいいは変ですよねすみません……かっこいい、じゃなくて綺麗です!」
「な、なにをい◎■@★¥!!!!!!」
「だから綺れ、」
「聞こえてたわよ!!」

本当、調子狂う、とため息をついた。そうですか、とばかりにまたニコニコと笑うものだから誰にでもそんな表情をしているのか、と思いぐいっとアイチの頬を引っ張った。そうすれば涙目になりながら痛い、痛いとふにゃふにゃと喚くものだから思わずコーリンは笑ってしまった。
自分よりも背が低く、同じ年だとも言うのにあどけなさが残る顔と綺麗な瞳は男子、とは言い難かった。素直に可愛いと思えるほどで、ぐりぐりと頭を撫でたりしてみたいという思いが込み上げてくるのだ。

「あんた、生まれる性別間違えたでしょ」
「えっ?」
「私と交換したいくらい」
「こ、コーリンさん何を言って……それじゃあ、まるで僕が女の子みたいと言ってるような……」
「馬鹿ね、“ような”じゃなくてそう言ってんの」

ぴしっ、とばかりにアイチの額にデコピンを一発してみれば額を抑えながら涙目になる中学生男子がいた。此処までして一体全体何故、男なんだろうと不思議になる。自分が男だったら間違いなくベストカップルになれた、と少々ズレた思考回路をコーリンは廻らせていた。

「そうだ、あそこのベンチに座らない?立ちっぱも疲れるし」
「そうですね…」

まだ痛いのかぽてぽてとコーリンの後をつきながら雪の上を歩く。本当なら、暖かい喫茶店に入りたかったものの生憎財布を持ち合わせていない。すぐに戻ると思っていたため、アイチに会うなんて想定外でイメージ不足だと思い知らされた。アイチに払ってもらうなんて言語道断。コーリンのプライドが許さない。ちなみにアイチ以外の他人ならば払ってもらうのだが。

「もう、まだ痛いの?」
「コーリンさん力強いです…」
「アンタが弱いのよ。全く…」

と、着ていた服のポケットでちゃり、とお金の音がした。みれば二百円が都合よく入っていたのだ。そういえば、レッカに貸したいつぞやね二百円が今日戻って来たんだっけ、と記憶を辿るとラッキーだと言わんばかりに立ち上がり、ちょっと待っててと言って自販機に向かった。

「えーっと……うっ、好みなんてわからないじゃない…。ココアでいっか、甘いの好きそうだし」

ちゃりんと百円玉を入れれば代わりに缶のココアが出てきた。自分もココアにしよう、と硬貨をいれてボタンを押そうとした時「くしゅんッ」とくしゃみをしてしまった。風邪引いたのかしら、とばかりに思っていればガコン、と音と共に飲み物が落ちてきた。あれ、とばかりに取り出せば案の定そこにはココアではなくコーヒーが。しかも無糖なブラックだ。コーリンが飲めるはずもないそれは、がくりと肩を落とした。

「はい、ココアで良かった?」
「わざわざすみません、ありがとうございます!ココア大好きです」
「なら良かった、」

嬉しそうに受け取るアイチにコーリンも嬉しそうに笑う。それから二人は他愛もない話をした。アイチは後江高校には行かず、出来たら出戻りになるけど宮地学園に行きたい、だとか、家族の話だとか、コーリンは芸能界の話なんかもした。
こうやってアイチと二人きりになって沢山話すのは意外にも初めてで楽しいと素直にコーリンは感じた。それ以上に好きな相手なためか、もっともっと気持ちは込み上げた。手に持つ缶がぬるくなるのに気が付き、飲もうと蓋をあけて飲めばそれがコーヒーだと気付く。口の中に広がる苦味は美味しいはずもなく眉を潜めた。

「そういえばコーリンさん、コーヒーはブラック派なんですね」
「ま、まぁね」
「コーリンさんは砂糖たっぷりな方だと思ってたんだけど……苦く無いですか?」
「に、苦くないわよ!」
「でも、あんまり…と言うか凄く美味しくなさそうに飲むから…」
「うっ」

嘘などつかない真っ直ぐで思ったことはズバリと言う性格のコーリンはそれ以上は何も言えずにいた。そうすればアイチはコーリンの顔色を伺い出す。口をぎゅっと結びもだもだとしているので、アイチはあの、と言ってコーリンをこちらに振り向かせた。

「あの、良かったら交換しませんか?ココアと、」
「は…?な、何言って…!」
「実はココアよりもコーヒーの方が好きなんです、」
「う、嘘よ!あんたは砂糖たっぷりでろでろな甘いコーヒーの方が好きよ!私のイメージに間違いはないわ!」
「そんなこと無いですよ、ブラックなコーヒー大好きです」

にこり、とアイチは微笑むとそっとコーリンの持つ缶コーヒーを取り、代わりに持っていたココアを渡す。取り返そうと思って手を伸ばしてみたものの、ふるふると左右に首を振り渡してくれそうにもないアイチに意外と頑固なのね、と思いながら諦めた。
しかし、コーリンはとんでもない事に気がついてしまった。アイチが持っている缶コーヒーと自分の持つココアに。どくどくと全身の血液が心臓に一斉に集まり身体の感覚器官がショートしてしまう、のではないかと感じる。
ーーーこれを飲んだらま、間違いなくか、かん…間接キス……!

「ア、アイチ、だめよ!」
「ふぇっ!?」

バシャ、と地面には黒い染みが出来てしまった。カラン、カラン、と音を立てながら空になったコーヒー缶は地面を転がりやがてゆっくりと止まった。ぱちくりとアイチは数回瞬きしながら、不思議そうにこてん、と首を傾げれば更にコーリンは真っ赤になる。
そうして、アイチに何か言わせる間もなく立ち上がると「これから用事あるから失礼するわ、」と言って走って何処かへ行ってしまった。

「コーリンさん…あんなに顔を真っ赤にさせて大丈夫かな…?熱でもあったのかな…?」

全く気付かないアイチはうなりながら自分もそろそろ家に帰ろうとベンチから立ち上がると、律儀にコーヒー缶を拾い、空きカン、空きスチール缶、と書かれたごみ箱に入れ公園を後にした。

ああ、もう!何やってんの!バカ、私のバカ!
そして此処には路地裏で何やら絶賛後悔中のアイドルがいた。自分のしたことによく分からない、とばかりに何であんなことしたの、と反省を繰り返している。アイチのことだから間接キスだとかそんなこと絶対に考えていなかっただろう。だからこそ、一人でそんなことを考えていた自分が恥ずかしく穴があったら入りたい状態にいるのだ。唸りながらもコーリンの目に入るのはアイチから貰った飲みかけのココアの缶。ごくり、と無性に喉の渇きを感じてしまいどうにでもなれ、とばかりにコーリンは口をつけ、一口ごくり、と飲み込んだ。
しかしそれは不思議なことにコーリンの予想は外れ、眉を潜めながら顔を膝に埋める。小さな声で、嘘つき…と呟くとまた耳を真っ赤にさせた。

「甘く、ないじゃない…まるで砂糖を抜かれたようだわ…」

やっぱりまだ砂糖無しではいられない、とばかりに暫くコーリンはそこを動けずにいた。


シュガーキラーにご注意を
130113

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