"夢"はさ迷った。幾度も幾度も世界を見渡しては誰も自分には気付いてくれず、自分がいる世界を幾度も捜した。
だが彼女も同じだと言った。自分達も幻だと。見放され、戮を償うためだけの幻だと。

ぱちり、と左目を大きく開けて身体を起こした。少々頭が痛むのか頭を押さえる。ふと視界が真っ暗な右目に触れれば顔半分を覆うかのように包帯がグルグルと巻かれていた。だが不思議に思う訳でもなく、むしろ頬を染めて嬉しそうにふにゃりと笑った。
と、それと同時に部屋の扉ががちゃりと開いた。豪奢な部屋の造りになったその部屋だがカーテンは閉じられ薄暗い。

「お目覚めですか」
「んぅ…ん……まだちょっと眠い……です。僕はどのくらい寝ていましたか?」
「200年ほど、」

シャッ、とカーテンを割いた。途端に包帯の掛かってない左目を眩しそうに細めると眉間に皺を寄せた。

「まぶしい…」
「身体に毒ですよ。お腹、空いてますよね?何が食べたいですか?」
「お肉がいいです」
「あら即答」
「とっても美味しいお肉ですよ?それ以外は駄目です、ふふっ……ふふふふ」
「?」

と、突然肩を震わせながら笑い出す。両手を両頬にあて、うっとりとした様子になりニタリと笑った。

「ねぇ、スイコさん、僕の右目、綺麗?」
「ええ、もちろん。良くお似合いですよ。でも楽しみは最後まで取っておかないと」
「ふふっ。あぁ、そういえば"僕"は?」
「隣の部屋で寝ていますよ。前回ので疲れたのでしょうかね、毎日毎日コーリンが見に」
「前回?僕がいない間に遊んでたんですか?ずるいです。僕もゲームしたかった…」

しゅん、とうなだれた。サイズの大きいTシャツからは肩がズルリと下がり、裾から覗く白くて少し栄養が足りてないのか細い身体と足をバタバタとさせた。そんな様子にくすり、と笑うとぱさりとシーツに落ちていた包帯を手にとり、また顔半分を覆うかのように巻き始めた。

「いいえ、ちょうどいい時間にお目覚めされました。ゲームを今から始める所ですよ。参加、します?」
「!! 参加、します!楽しみです……!ふふふふ……ひひっ……あははははははははは!!!!!!!いっぱい殺します!死に顔もその首も隣も全部僕のものです!!!!ああ……それを想像しただけでゾクゾクしますぅ……」
「存分に愉しんで下さいませ。我が主も傍観をしている故、あまり羽目を外しては駄目ですよ?」

まるで小さな子供に言い聞かせるかのように優しく言う。そうすれば屈託のない笑顔が返ってくる。

「でも、普通じゃつまらないです。ちょっと身体を借ります、それにまだこの身体じゃあ動けないですもの」
「なら器を持って来ますね。そうですね……」

と、小さく呟くと立ち上がり部屋の扉を開けた。

「ゲームは今から4時間後に始めますので、まずはご飯を持って来ますね。それまでは少々退屈を愉しんでいて下さいませ」
「ええ、もちろん」

パタン、と扉を閉じ廊下を歩く。ますます面白くなりそうだ、とスイコはわくわくしていた。用意はもう出来たのだ。またゲームを用意し、招待をする。終わることの無い、世界を見詰めながら歩く。
幻は夢を見つけ、夢は幻を見付けた。果たしてそれは逸話だったのか?
そう、これは新たな宴だ。悪夢のような―――悪夢なのかもしれないと言う、宴なのだ。















彼女は言った。
これから先を知らなければならない、と。だからそのために"箱"が必要だ、野兎と猟犬が必要なのだと。

青、赤、黄、緑、桃、橙、黒、藍、白、紫。

十の色はこれから先の未来を予知する色。そして残った色はこれから先の未来を灯、導く色。
自分がこれから見据える世界に希望を持つ。自分が探し求める世界を何度も何度も行き交っていく。エンディングノートなどはない。そんなもの破り棄ててしまおうじゃないか。そんな世界を自分は探してはいない。
自分の愛する駒を庭に放ち、猟犬が兎を襲う。喰い契られた兎は自分の探す世界ではないということ。
戮を背負いし身体にはただの狂喜しか残されていないのか?

さぁ、舞台は用意出来た。
愛する駒は兎となり、庭に放った猟犬から逃れられるのか?
大きな大きなその箱で―――一体何匹が生き残れるのだろう?

全ては私の娯楽のために。
全ては私達の戮のために。
全ては我が主のために。
全ては…そう、アナタが望む欲望のために………。




箱は用意できた!全ての準備が整った!
箱には野兎を放て!そして野兎達よ、生きるために力を奮い運命を決めよ!
猟犬を……野兎を狩る猟犬から逃れて生き延びろ!!

私達を愉しませてご覧下さいませ、
そしてどうか、私達と我が主と愛妣(あいなき)夢のために――――生き残って下さい。









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