学校が終わり、いつものようにカードキャピタルに足を運んだとき普段見慣れぬ赤があった。珍しいな、と思った時には「あっ」と、声が漏れてしまいそれに気が付いた人物はくるりと振り返った。そうして避けることも敵わないまま、相手はがばりと抱き着いてきたのだ。もちろん、身構える隙すらなくアイチは重さと重力には逆らえず痛々しい音と共に背中から床に倒れこんでしまった。

「い、いたたた…」
「こんにちはアイチくん!逢いたかったですよ!一体どこに行ってたんですか?」
「ど、どこってそれはもちろん学校ですよ……と言うかレンさんはなんで此処に…?あ…その前に退けてくれたら嬉しいです……」

「嬉しいです」と言い終わる前に首元を掴まれて持ち上げられた猫のようにレンはひょい、っとアイチの上から櫂の手により強制的に退けられた。櫂の背後からは黙示録の炎という名の怒りの炎があがっている。そうしている間にアイチはミサキによって起こされ、痛い所はない?と念入りにチェックをされた。「どうしてレンさんが此処に?滅多に来ないのに…」と首を傾げてアイチが聞けば眉を潜めてミサキはため息をついた。鈍感なアイチは気付いていない様子だ。

「僕はアイチくんに逢いに来たんですよ。ほら、中々場所が場所で遠いいから逢えないでしょう?そうなると寂しいんです。アイチくん元気かなーって」
「あ、えと…ありがとう…ございます…?」
「うちはショップなんだから、カード買わないヤツ、ファイトしに来た訳じゃないヤツ、ただ騒ぐ奴らはいらないよ」

そんなミサキの言葉に少々ぎくりとなったのは一人だけではない。まぁミサキのことだ、レン一人だけに対して言った訳ではないだろう。あくまで櫂は目をつむり何も聞いていないフリ状態だ。そんな櫂をジトリと横目で見るとミサキはやたらとアイチに絡むレンからアイチを引き離した。

「ミサキさん…?」
「ほら、アンタもだよ。雀ヶ森レンもそうゆう目的じゃないなら帰んな」
「ミ、ミサキ、お客さんにそうゆう言い方は…」
「シンさんは黙ってて!」
「…はい」

ぴしゃりと言われて縮こまりシンはいそいそとテーブルを拭きはじめた。そんなシンを哀れむように三和と井崎は顔を見合わせる。
「じゃあ」と言ってポケットからデッキを取出したレンはアイチに向かい「ファイトをしましょう!それならば良いんでしょう?」と一言。アイチもレンとはファイトをしてみたいらしく、ひょこりと頭の触角を動かすと鞄の中からデッキを取出した。レンも嬉しそうに笑い、ミサキから今度はレンがアイチを奪えばカムイが黙っていなかった。

「ちょーっと待ったァ!お兄さんと今日1番にファイトするのはこの俺様だ!昨日から約束していましたよね!お兄さん!!」

バン!!とテーブルを叩くと椅子の上に立ちあがりレンに指を差す。レンはむっとばかりに不機嫌な顔をしながらアイチを見れば困った表情をしていた。
そういえば、していたかもしれない……。トリガーを変えてみたから試してみたい、と言われていた気がしてきた。アイチは申し訳なさそうにレンにそう伝えれば「だったら終わったらですよ!待ってます!」と意地でもアイチとファイトがしたいのか、がたがたと椅子をアイチの隣に置いて座り込んだ。周りには櫂やミサキ、三和やらショップにいる皆がまるでアイチを取り囲むかのようにファイトを見物し始めた。いつもとは違う雰囲気に緊張をしてしまい、切っていたデッキをばさばさと床に落としてしまった。

「あわわ、ごめんねカムイくん!い、今拾うから……ひうっ!!」

恥ずかしかったのか、わたわたしながらテーブル下に落ちたカードを拾っていると案の定アイチは頭をテーブルに打ち付けてしまった。思わず頬が緩んだのは言うまでもなくショップ内にいる人間。目にうっすら涙を浮かべながらごまかすアイチにきゅんとした。と、すりすりとアイチに擦り寄るレンを発見するとぱこんと丸めて筒状に持っていたポスターでミサキはレンの頭を叩いた。当たり前だが易しく叩いたわけではない。

「なにするんです、ミサキチ?」
「キチっているような変なあだ名つけんな!ミサキ!てかそれはこっちの台詞!!何してるんだよ!」
「アイチくんからいい香がしたので嗅いでました、いたっ」
「アンタ危険!アイチから離れろっ!邪魔!」
「そんな節操なー」

反抗すればするほどぽこぽこと叩かれるので渋々アイチからレンは離れる。わざとなのか嫌味なのか(どちらもあまり変わらないが)あまり身長の変わらない櫂の目の前に立つとまたひたすらアイチだけを見はじめた。

「おい」
「なんです櫂?」
「…邪魔だ」
「そう言われても、櫂が僕の後ろに立っているからでしょうー。馬鹿ですね櫂は」

櫂の目の前に立ったのはレンなのだが、確かにレンの言うこともあっている気がしていて三和は肩を震わせて笑ってしまった。「あ、やべっ」と声に出して櫂を見れば物凄い表情で怒っており、井崎の背を盾にささっと隠れる。いい迷惑だと言わんばかりに櫂を宥め(?)なんとか落ち着いた。意外にも黙り込けながら真剣な眼差してファイトをみるレンを見て一安心したミサキだったが、瞳がPSYクオリア状態のときと同じであることに気が付くと違和感を感じた。ちらりとアイチを見れば、アイチもまたレンをちらりと見ていた。困ったように眉を下げればレンは首を傾げる。

「……何やってんのさ、あんた達」
「アイチくんにエールを送ってたんです!あえて声には出さすPSYクオリアでエールをいたっ」
「アイチを困らせんな!全くめんどうな能力持ちやがって!」
「僕とアイチくんだけの秘密の会話です!羨ましいでしょう!」
「ああ羨ましい!」

一斉に櫂を見れば櫂もまた後ろを向いた。「クズ、ドクズ、変態ついでにクズ!」と吐き捨てながら中々進まないファイトにカムイは少々苛立った。
――せっかくアイチお兄さんを独り占めしてこうしてファイトまでしてるのに…!
結局はカムイも頭の中はアイチのことでいっぱいだったのだ。にも関わらず、当のアイチはにこにことカムイを見ていた。ぼふんと顔を赤くしながらデレデレと「ファイト再開しましょうか!」と言えばアイチはこくりと頷き再開をする。最終的にレンは椅子に座らされ、ビニールテープでぐるぐると身体を巻かれて大人しく見ていなさい状態だ。
ようやくファイトが終わると、レンを見て少々ぎょっとしながらアイチは「レンさん」と声をかけた。ガタガタと椅子に縛られたまま動き奇妙な光景に戸惑いながらもファイトをしようとした時だった。

「レ、レンさん、」
「やっとアイチくんとファイトできますー!実を言えば今日は学校をサボってアイチくんを探していたんです。まぁこれがまたテツには気付かれてなかったみたいでですね〜」
「いえ…あの、レンさん後ろ……」
「? 後ろ?」

そう言われて後ろに振り返った。そこには仁王立ちをしながら、櫂からの電話を聞き付けてカードキャピタルにたどり着いたテツがいた。逃げようにも今だ椅子に縛り付けられている状態では当たり前に逃げることは敵わない。つまりレンは強制送還だ。

「いやですー!僕はアイチくんとファイトするんですー!もふもふのぎゅーのちゅっちゅぺろぺろをするんですー!!!」

意味不明な言葉を吐きながらズルズルと引きずられるように店を出ていくレンと保護者テツを見ながらアイチは少しばかり名残惜しそうに見送った。と、出て行ったはずのレンがまた店にひょっこりと顔を出してきた。

「アイチくん、明日また来ます!そしたら一緒にちゅっちゅぺろぺろしましょうね!げふぅっ」

顔を出したと思ったらまたもやテツに戻されてしまいレンは次に顔を出すことはなかった。もはやレンの言葉からファイトをするという単語は消え失せ、最終的に最後の意味不明な部分だけ残っていなくなった。

「また来るのかよ…シンさん明日はアイツ入れないで」
「む、無理ですよ!」
「アイチの貞操が危機なんだからシンさんも協力してよ!!わかった!?返事は!?」
「はいぃ!!」

「ミサキちゃんこえー…」とぼそりと呟けば、珍しいことに櫂とカムイはタッグを結成していた。“レンからアイチを守る”というのをタイトルによくわからないタッグだ。今日も楽しいね、と寝起きの店長代理に話し掛ければ店長代理は鼻をくっつけざらりとアイチの唇を舐めると同時に「にゃーお」と鳴いた。
今日もレンの頭の中はアイチでいっぱいなのだ。





*****

わんさんリクエストの、レンさんがアイチ目当てでショップに来てそれを櫂やミサキ、カムイが守るお話……でした。レンさんがショップに来る度にテッちゃんがレンさんを強制送還しに来たらいいなと勝手にイメージ…。リクエストに沿えてない気がするのはいつもですねすみません!リクエストありがとうございました〜!


まろやかクオリア
121206


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