外を歩くと、雪はもう溶けて水溜りがあちらこちらにある。間違って入れば、ズボンの裾に水が跳ねちゃうから、避ければ思わず転びそうになる。
ズボンの裾が濡れたら、お母さんよりもエミに怒られちゃうから気をつけなきゃ。なんて思ってたら、後ろからぐいっと腕を引かれた。縺れて、よろけて、倒れそうになった身体は途端にぎゅっと後ろから抱きしめられた。


「だーれだ、」
「…三和くんでしょ?」
「ピンポーン、正解〜」


耳元で三和くんが笑う声が聞こえた。
こんな道端で、こうやっていたずらするのは三和くんくらいしかいない。そもそも、なんで目隠しとかじゃなくて後ろから抱きついてくるのかな?うーん、でも、道端で目隠しされてこんな事するのは今よりももっと恥ずかしいかも。


「み、三和くん、いつまでこうしてる、のっ!」
「っわ、おっと!アイチ照れんなよ。俺たちの仲だろ?」
「照れてないもん!って、ああ!……エミに怒られちゃうよ…」


なんだか冷たいな、って思ってズボンの裾をちらりと見てみれば案の定足は水溜りに入ってて、もちろん、ズボンの裾はぐっしょりと濡れていた。
乾くまで、時間かかりそうだなぁ…。


「なんだ、アイチ、いちいちズボンの裾濡れんの気にしてんの?」
「う〜、三和くんのせい…」
「わりぃ、わりぃ。なら、乾くまでデートしてようぜ!カードキャピタルはほっといて」
「でっ?!いいよ、僕はおとなしくカードキャピタルで――っわぁ!」


三和くんが僕の話を聞いてくれるはずもなく、三和くんは僕の腕を掴んでしまうから僕の放課後は三和くんとお散歩になってしまった。(三和くんはデートって言ってたけど。)
ちらりと三和くんを見てみれば、機嫌が良いのか鼻歌を歌ってる。この歌はなにかのCMで聞いたことがあるなぁ。でも、なんのCMだったのか思い出せないや。


「お、アイチ、桜のクレープだってよ」
「わぁ、美味しそうだね。桜が入ってるのかな?でもまだ咲いてないよ?」
「クレープの中に桜って、あんまり美味しそうな感じしねぇな。あれだろ、春が近いから、先取り?ってやつ?」
「そっかぁ。じゃあ、春になったら食べたいな」
「なら、春になったら食べに来ようぜ」


そう三和くんに言われたのが、なんだかとても嬉しくなって、二つ返事で僕は頷いた。
でもでも、いつになったら春なのかな?雪がすっかり溶けて、ぽかぽかしてきて、桜が咲いて、ちょっとボケてきたらなのかな?
春ってすごく素敵な季節だけど、それと同時にすごく眠たくなっちゃうし、花粉が舞って、花粉症の人はすごく大変そうだなっていつも思うんだ。そういえば、僕は花粉症じゃないけど三和くんは花粉症なのかな?そしたら、あんまり一緒に外に出れなくなっちゃうんだよね。
それはちょっと寂しいな…。


「なーに、ぼーっとしてんだよ。どうした?もう春ボケ来たのか?」
「ち、違うよ!まだ春ボケは来てないもん、考え事してたの!」
「考え事?何か悩み事でもあんの?」
「悩み事、と言うか…うんとね、三和くんは花粉症?」


聞いてみると三和くんは不思議そうに瞬きをした後に、にかっと笑って否定をした。どうやら三和くんも花粉症ではないみたい。良かった…。でも、まぁ三和くんは健康体だと思うから、あんまり風邪引かなさそうだな。
花粉症の三和くんすら想像できないや。


「アイチは?」
「僕も違うよ。花粉症って、大変なんだってね。くしゃみとか、鼻水とか止まらないみたい」
「目もかゆいんだってな。春は大変なんだなぁ」
「…あのね、もし三和くんが花粉症だったら、春になったらあんまり三和くんと会えないのかなって思っちゃったの。だって、花粉症だったら外に出るの大変でしょ?そう考えてたら、春にならないで欲しいなって思っちゃって……?み、三和くん?」


ぱちくりと僕は何度か瞬きをしてみた。今度は後ろからじゃなくて、前からぎゅって抱きしめられたから。
それがたまらなく恥ずかしくてわたわたしても、三和くんはむしろ逆にぎゅっと抱きしめてくる。そう思ってたら、首筋に顔を埋めてくるから、びっくりして背中をばしばし叩いた。
そしたら、三和くんはぱっと顔をあげて僕をみる。よく三和くんの行動がわからなくて目を逸らしたら今度は頬っぺたをつまんでくる。


「な、なにひゅるの、いふぁい、いふぁいよぉ〜!」
「はは、変な顔だな。なぁ、…桜のクレープ今、食べようぜ?」


ぱっ、と手を離した三和くんはなんだか嬉しそうに笑っていた。
そのあと三和くんはごめんな、って謝って僕の頬を摩ってくれた。それでもやっぱり僕は三和くんがわからなくて、ちょっぴりむっとした表情でいたら、今度は唸ったかと思うと僕の前髪をあげて額に口を付けて来た。


「!!?!」
「お?機嫌治ったか?んじゃあ、よし。たべようぜ、クレープ!んで、今日食べてまた来ような」
「うぅうう……!」


結局、三和くんの手をとっちゃう僕はふてくされるのも数秒しかもたないみたいで。
春じゃないのに、僕の心の中はぽかぽかで握られた手もなんだかいつもよりあったかく感じちゃったりして、雪解け水に反射する日差しのせいで、三和くんの明るい髪の毛がいつもより眩しく感じた。





春とぼくと三和くんと
130226






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