カツン、カツンと廊下に足音が響き渡る。手には小さな機械。ジ、ジジ、とノイズが響き少々苛立ちを隠せない。

聞こえるカ?
聞こエタナラバ、応答シロ。ソレ以外ハ何モ言わなクテイイ。
今、ソチラニ向かっテイル。持て成しクライハ出来ルンダロウナ?


その低音だけが廊下に響いた。掃除はきちんと出来ているのか何もない。耳にスピーカーを充てると、くすりと言う笑い声が聞こえ、眉を潜めた。

『あら。ごめんなさい、失礼でしたわね。なにぶん、こういった性格なものでして、十分分かっていますでしょう?』

ああ、良く知ってイル。大目ニ見テヤル。ダカラちャント報告ヲシロ。

そう言うとブツリと電源を切った。そしてゴシック調で茶色の扉のドアノブに触れるとゆっくりと押した。

「―――こんにちは、良くお出で下さいました。飲み物は……珈琲で?」
「此処は喫茶店なのか。珈琲は嫌いだ。紅茶にしろ」
「あら、珈琲は嫌いでしたか?」
「で、茶番はいいから早く話せ」

疲れたのかため息をつき、ソファに腰を下ろした。スイコはテーブルの上に紅茶のカップを置くと向かいに座った。

「そういえば、見ていたので?今回のゲーム、」
「ああ。どんなものだろうかと思えば……つまらなかったな。期待外れだ。だいたい気に入らない」
「架耶トシノです?」
「……」

名前を出した途端、黙り込み紅茶に口付けるのをみて、わかりやすいと呟いた。すると相手は不満そうに眉を潜める。

「沈黙は肯定を意味しますよ」
「話を続けろ」
「貴方様が評価をしていただかないと私も次には進めません」
「ふん、めんどくさいことを……。このゲームのタイトルを"ナイトメア・アネクドート"と言ったな。まずシナリオ不足だ」
「あら批評。どう言った所で?」

意外、とでも言うかのように驚き飲みかけたカップをテーブルに置いた。

「内容が薄い。細かすぎる。最後に誰が主催者なのかを言うのに価、長い。くどい。もっと簡潔にまとめるべきだな」
「そうは言われても、我が主の書いたシナリオ……。そもそも貴方様が手紙を断ち切ったのが原因では?」

ぴくり、と眉が動いた。スイコは全く悪びれた様子もなくただ笑っている。厄介だ、と言わんばかりにあからさまに嫌な顔をした。

「それは語弊だ。俺はちゃんと出した。レン、と言ったなあの赤髪…。まずは第一に何故アイツの部屋にアイチにやった手紙があった。おかしいだろう」
「何故でしょうかね?」
「………貴様、本当に狂喜な性格の持ち主だな」
「きょうき?ああ、喜びのほうですか。ふふ、褒め言葉として貰っておくわ」

うっとりと笑うかのようにスイコは微笑んだ。
そうだ。手紙をレンの部屋に投げたのは紛れも無いスイコだ。70年も以上前、スイコは一体どうゆう経緯か知らないが――――手紙を隠した。

「お前は常に面白いことを探しているらしいな。だからこそ、アイチの前に幻として現れたんだろう。いい性格をしている。だがお陰で破棄になった」
「婚約者、としての立場ね。……常に私達は時と狭間に囚われている。我が主を見つけ出したのはコーリンだったわ」

懐かしむようにぽつりと零した。暫く沈黙が続いた。最初に口を開いたのはスイコだ。

「結果的にハッピーエンドをあの子達は書きましたよ。これでは貴方様の入る隙がないのでは?」
「俺を誰だと思っているんだ。仮にも今は俺がお前らの主だろうに。と言うか、貴様は新たなゲームを考えてるんじゃないか?」

何気ない言葉だった。だがスイコには図星で目を丸くしてしまった。次に魔法の如く取り出したのは一冊の本だった。

「ええ、今度は貴方様が楽しめるようなゲームをしますわ。面白い舞台を見付けたので」
「パラレルワールドに行ったのか。変な力を持つな、貴様達は」
「全ては我が主のために、がモットーですので。戮滅ぼしですしね」

手には三つのダイス。ころりと転がした。何の意味があるのだ、と言わんばかりにスイコを見れば摘み上げる。

「次のゲームで使うので。まぁ、はっきりとこのゲームにしようと決めた訳ではないですよ」
「なんだ、めんどくさいな。俺には貴様らに付き合うほどの時間は用意していない。貴様が創るゲームによるが、な」
「それは駒の子達がどんな行動をするかによりますので」

会話の攻防は続く。別に争っているわけではない。だが争っているように見えてしまうのだから仕方ない。

「とりあえず俺は傍観に謹む。だが……俺の期待に応えられるようなゲームでないならば、一つその世界を消す。
次のゲーム、楽しみにしている」
「ご期待に応えれるよう……精一杯頑張りますわ。ゲームが開始されるまで……少々、退屈を愉しんでいて下さいませ」
「……」

ぺこり、一礼をすると部屋を出た。廊下を一人スイコは歩く。
スイコは傍観者であった。ただ自分が面白いと感じたならば参加はする、しかしどちらかと言えば進行をする方だ。
舞台を用意する。無数にある世界から狭間を渡り歩き舞台を見付ける。
全ては自分達の戮と娯楽のため。狂喜を背負った身体には感情などは殆ど薄っぺらいのだ。主を見付け、ただ期待に応えられるようなゲームを創る。そうして何よりも楽しみたい。

「今回ばかりは内緒にしておかないとねぇ…。コーリンなら反対するだろうし……むしろコーリンは傍観者に向いてないわ、駒としている方がよっぽといいわ」

さぁ、準備は出来た。
全ては私達の戮の償いのために。
全ては私の娯楽と遊びのために。
全ては我が主のために。
次はどんな悲劇…喜劇…が生まれるのか。楽しみでしょうがない、とクスリと笑った。

「新たな我が主のため……此処に主催者として立ち上がるわ。さぁさぁ、愉しませてご覧なさいな、ゲーム盤の駒の皆様方」


舞台を変え、新たなゲームが始まる。新たな駒は立ち上がり、意思を持って前に進む。
例え、それが悪夢だとしても――――。






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