櫂がアイチの腕を引っ張り速足で歩くと同時にアイチのしっぽが揺れる。いつの間にか辺りは真っ暗になり夜になっていた。だからと言って耳もしっぽも隠してないのはマズイのでは、と櫂に話し掛けようとするが背中から話し掛けれないオーラが立ち込めており、もだもだする。


「か、櫂、くん!」
「なんだ」
「ひぅっ…!(こ、怖いよぅ…!)あ、の耳とかしっぽ出てるんだけど……」
「見えないから大丈夫だ」
「じゃ、どこに行くの…?」
「黙ってついて来い」


もはや会話のようなアイチの一方的な会話にしかなっていない。ついて来い、と言うか引っ張られてるよ、などと言うツッコミは今言えるような状況ではない。仕方なくアイチは引っ張られるままについて行った。


****



ちょこん。とアイチは公園のベンチに座っていた。一人取り残されて櫂は何処かに行ってしまったのだ。アイチは一応猫でもあるため、夜でもよく見える。ふと、先程までのことを思い出していた。

今日一日で、沢山のことがあったなぁ……。レンさんも櫂くんも僕も……皆思い出した。忘れちゃいけないのに、消しちゃいけなかったのに全部僕のわがままで迷惑をかけちゃった…。だけど変えられたのかな、四年前みたいに全てをリセットするんじゃなくて新しい……。


「ッにゃう!?」


ぴたり、と頬に冷たい無機物の感触。ぞわぞわして思わず鳥肌が立ってしまった。そうして見えたのは翡翠の輝き。


「ほら、とりあえずこれでも飲め」
「あ、ありがとう…」


そう言って受け取ったのは缶ジュース。そっか、さっきまでこれを買いに行ってたんだ……。ちらりと見れば櫂くんは微糖のコーヒーを飲んでいた。僕のは何だろうと思ってみれば、“ちっちゃいお子様でもピッタリ!りんごジュース”……。


「櫂くん、僕一応15歳だよ!?」
「十分子供だろ。いらないならいいが」
「い、いるけど……」


一つしか歳変わらないのに何だかムッとして頬を膨らませたら、「やっぱり子供だな」と言われてしまった。抗議すればするほど子供っぽい気がして、大人な僕はおとなしくジュースを飲んだ。


「そういえば、何で公園に?もう真っ暗だから公園じゃ遊べないよ?」
「遊ばない」
「? ………櫂くん、お、怒ってる…?」
「怒ってない」
「うそ……。絶対、怒ってる!」
「犯すぞ」
「に゙ゃっ!?な、何で!?」


翡翠の瞳をぎらぎらさせながら見てきたのでびくりと身体が強張った。コト、と缶コーヒーをベンチに置くとじりじりと近付いて来た。思わずぎゅっと目をつぶると、頬を伝わる生暖かい感触。何だろうと思ってゆっくりと目をあければ目の前にはアイチの頬を舐める櫂の姿。


「にっ、にににゃあぁあ!?」
「右か、左か」
「な、何が…?」
「……レンにキスをされたのはどっちだと聞いてるんだ」
「た、確か左……って、何で舐めるのぉ!?」


服を掴みほぼ無理矢理にこっちを向かされるアイチには辛い体勢だ。櫂の胸元を押して抵抗するが全く動じない。


「消毒だ、消毒」
「しょ、消毒?ひっ!?く、首はレンさんに舐め、られてなぁ……!!」


体勢が立てなくなり身体がベンチに倒れた。櫂はそれでも構わずにアイチに馬乗り状態で首筋に顔を埋めたままで応えようとはしない。せめて、と思いしっぽでパタパタと櫂を叩けばユラリと身体を起こした。


「よ、良かった…櫂くんどうしたの?なんか変だ、ひにゃ!?あ、ああ、な、何を…!!?」
「性帯感だろう?これは」
「や、やぁあ…!か、櫂くんやめて!それいやぁ…!!」


アイチが見たのは櫂の悪いカオ。そしてするりするりと撫でられるしっぽ。時折強く握り締められる。


「か、櫂くんきらい…!ひどいよひどい…!!ぼくが嫌いだからそうゆう、ことするの…?うっ、にゃあぁ…!」
「!?」


ぼろぼろと泣き出すアイチを見て遊びすぎたか、と少し反省しながら手を離す。だが泣いたアイチが可愛くてもう少し見たくなったが、本気で嫌われたくはないのでやめた。


「…そうゆうわけじゃない、悪かった、遊びすぎたな」
「うぅう……頭なでなでされても嬉しくないもん…!!」
「……じゃあ何でお前の尻尾は俺の腕に巻き付くんだ」
「にゃッ!!?」


悔しそうに、顔を真っ赤にしながら涙を目にいっぱい溜めるアイチに笑った。笑われたことに気付きポカポカと櫂を叩く。
これは肩たたきにちょうど良いなと思ってしまった。


「嫌いなわけないだろう。本当、お前は子供だな、危なっかしい…」
「こ、子供扱い…!!」
「……アイチ、」
「何?櫂く、ん……?」


櫂は壊れ物を扱うかのように優しく抱きしめた。
先程レンにされたとは少し違う……すごくどきどきする……。
だけどそれは櫂も同じらしい。呼吸が、鼓動が、吐息が、時間が止まったかのように暫くアイチは何も言えず瞬きするのを忘れていたかのようだった。


「あったかい…ね……。変なの……あの時はあんなに僕冷たかったのに今はこんなにもあったかいや……」
「そうだな。あの時のお前は異常に冷たかった。おまけに雨まで降ってたしな」
「大切な思い出なのに僕は消しちゃったんだ、あんなに素敵な日常を……僕は自分の名前の意味をようやく理解した、冷たい雨の中、孤独で窮屈な世界から櫂くんは僕を見付けてくれた、」


アイチは櫂の頬をなぞるように触れた。その手を櫂は取ると心地好さそうに目を閉じる。


「You are not solitary.」
「……? どうゆう意味?」
「"お前は孤独じゃない"
俺が初めてお前を見付けて出逢った時に思った言葉だ」


頬を染めて笑うアイチに送った言葉。それはアイチが一生をかけても忘れないであろう言葉。小さく「ありがとう」と呟く。アイチの瞳から無意識に零れる涙を舐め取ると耳元で囁いた。

櫂が言いたかった言葉。
アイチが待ち望んだ言葉。
二人を繋ぐ言葉。



「愛してる」



青色の髪を掻き分けてキスをした。繋がれた手、それをもう二度と離さないように強く強く握り締めた。


「Two another degrees and Tehana…….」
「んっ、ど…ゆう……意味…?」
「秘密だ」


帰るか、と言って立ち上がると座るアイチに向かって手を差し出した。それを見て微笑むとアイチも手を伸ばして受け取った。見付けた光と紛れも無い奇跡。


Two another degrees and Tehana.
(もう二度と手離さない)






END



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