もはや歩ける状態ではないアイムを架耶は抱えてレントと一緒に走った。もう少しで旧館から出れるとは言え、さすが旧館だ、中々広い。だがアイムが視た光景が本当なら大変だ。

「ドアがあります、此処が僕達が入ってきた場所だと思います、」
「ああ、早く行かないとな…!」

二人は思い切り扉を蹴ると、ようやく旧館から出た。自然の明かりがちらほらと感じられる。と、鼻がおかしくなるような鉄の匂いが辺りを漂っていた。大広間から此処は離れているのにも関わらず酷い悪臭。身体がよろめくが今はそれどころでは無かった。一刻も早く大広間へ―――。

「架耶、11人目がいないとしたら僕達を殺す犯人が僕達を含め、10人の中に存在するということになりますよね」
「そう、だな……」
「つまり主催者は10人の中にいる。一体何故?何のために?」
「それはまだわからん。が、傍観者であったはずの使用人まで参加をしてきた。これは予想外だ」
「Episode1の記憶は僕達にない設定なのですから持ち出しちゃ駄目ですよ」
「知ったことか」

アイムはまだ目を開かない。頑なに閉じ、一生開かないのでは、と言うくらいに。なら……それなら好都合だ。今から見る惨劇を見る必要はない。俺達に視えなくアイムに視えた光景はまだわからないがきっともう見てはいけないと思うのだ。

「この匂い、本当に酷いなぁ……。嫌と言うくらいに伝わりますよ」
「鍵は掛かっていない…」

ぐっとドアノブを掴み押してみる。すると隙間が空いた。それと同時に生暖かい血の匂いがする。気持ち悪い。だが、二人は覚悟を決めて中に入った。
二人が見た光景は信じがたい光景だった。一面真っ赤な血の海。赤色以外に色はないくらいに。

「ッ…これはアイムくんが言った通りですね、酷い有様ですよ…」
「肉なのか血なのかわからないな……」

そして確かに7人はいた。床に倒れ見るも無惨で惨たらしい様子だった。腹を掻き乱され腹からは腸が伸び、肉が飛び出ている。喉を裂かれて首が真っ赤になっている。脚を切り裂かれ皮膚から毛細血管が出てしまっている。何より――――

「架耶くん……大丈夫…降ろして……」

掠れた声でアイムは言った。顔面蒼白でこの光景をみるのが辛いであろう。
カノンもエルもミユキも三沢もレレナもカリンもステラの7人は死んでいるのだから。

「お前、大丈夫なのかそんな様子で……!?辛いならやめろ、」
「大丈夫、じゃないけど…僕だって此処までされて黙って見てられないよ……」

ごほごほ、と咳込むアイムに背中を摩る。実の妹が目の前で死んでいるのだ、正気ではいられないだろう。だがアイムはそれをぐっと堪えている、これ以上止める権利はない。

「じゅう……にしちょう…。殺され方がまちまちとは言っても皆の身体からは十二指腸が出てる……」
「十二指腸?この器官ですか?」

そう言ってレントが指差したのは7人全員からは胃と小腸を繋ぐ消化管、十二指腸だ。どれも皆、腹部から刔り出ていた。

「これ、十二指腸って言うんですね」
「十二指腸とは、ラテン語で本来、duodenum digitorum……dudenumとは12、digitorumとは指のことでそれを組み合わせて、「12本の指の幅」と呼ばれていたんです。さらに遡ると、ギリシャ語でdodekadaktylos……これも同様にdodeka「12」とdaktylos「指」から来てます。いずれにせよ、この名はこの部分の長さが指の幅の12倍ほどであることに由来するんです」

そうアイムは淡々と言った。レントは「そうなんですか〜」と頷いてはいるが本当に分かってるのかは定かだ。しかし……だからと言って、だ。何故7人の身体からは十二指腸が出ている?何か意味があるのか?

「12……指の幅…」
「この館には10人しかいない、……本当に?」

カタカタと震えながらアイムは呟いた。無意識なのかこの光景に堪えれなくなったのか涙が溢れ出している。これ以上死体など見ていたくないのだろう。喉元を抑え苦しそうにしている。

「だって…だって、皆死んでるんだよ!?だったら此処で倒れてる7人を誰が殺したの!?そんなの…そんなの…!!ッ、げほっ、げほげほ、!!」
「大丈夫か!?」

仕舞いには崩れ落ち胸元を抑えながら咳込んだ。この咳込み方は普通じゃない。苦しそうにヒューヒューと呼吸をする。

「お前、喘息持ちか」
「ッ、普段は、発病しないんだけど、っはぁ、はぁ、たまにな、げほげほ、げほっ、」

その間にレントは一人一人床に倒れる7人を見た。時折きちんと脈を確認しては頷いた。そのおかげで血に濡れてしまったが構わず散策する。

「嘘を…ついていたら?」
「何がだ、」
「使用人が、もし嘘をついていたらどうです?死者は存在する、と」
「馬鹿を言うな、そんなことある訳ないだろう」

7人は確かに死んでいる。では7人を殺害したのは誰か?この館にもう一人はおらず死者はいるはずがない。なら……ならば、だ。他に俺ら三人以外に殺害が出来た人はいないのだ。

「ッ…!!クソッ…!」

考えてもわからない。
何故だ?何故俺らは旧館に行き、実はただの拷問部屋だった、では何故旧館は時計塔なんだ?
一体時計とこれに何か関係あるのか?
針のない時計塔……?
何故針がない?
一体何の目的で針は外れた?
何故7人の身体からは十二指腸が刔り取られている?
指の…幅……?

ふと、大広間にかかる時計に指を翳し、親指と人差し指で12と掛かれた文字盤の幅を図ってみた。
ああ、何てことだ。これはただの謎掛けなのか、遊びなのか。……ふざけるな!!!

「この際犯人はあとだ!!!!もう一度戻るぞ時計塔に!!クソッ、」
「どうしたんです架耶、いきなり!?何かわかったんですか!?」
「とりあえず此処は危険だ!一刻も早く旧館に行き、確かめるんだ!!」

開いたままの大広間の扉から出る。アイムを抱き抱えたまま走る。来た道を戻るのだ。架耶の行動に理解が全く出来ていないアイムと何かが伝わったのか一緒に走るレント。

「日記帳を探すんだ!!そこに書いてあるはずだ!これを起こした奴の名を!」
「まさか架耶、君……針のない時計塔とは……」
「そうだ。お前も意外と察しがいいな」

耳に入る言葉をただ聞く。まだ上手く息が出来ず咳込む。虚ろな目で架耶を見れば悔しそうな表情。

「まずは、旧館が実は拷問部屋なのか。これは拷問部屋が時計塔になったからだ。あの部屋が拷問部屋だと知られないためのカモフラージュ、として作られたのが時計塔。つまり旧館には地下があった。階段も入口もない拷問部屋。ひっそりと作られたんだ」

これが拷問部屋であり時計塔である理由。拷問部屋と時計塔はあわせて旧館だった。拷問部屋だと知られたくなかった、あってはならない部屋だから。

「そして針のない時計塔と7人の身体から出た十二指腸の関係。レント、時計の文字は何個ある?」
「十二、ですか」
「ああ。簡単なことだ……。ただの謎掛けでありふざけた遊びなんだよ。あの本体とも言える大きな時計の十二と掛かれた文字盤には部屋がある。
正確には日記帳を隠すための小さな小部屋と拷問部屋を繋ぐ唯一の通路。だが時計の針が邪魔なため唯一の通路は塞がれてしまった。
だから針を外した。そして誰も近付けさせないようにと鳴るはずのない時計塔から鐘の音がするという噂をたてた。


誰が言い始めたのかは知らないが、と呟く。旧館に入り次はただ真っ直ぐに走る。もう迷う道などないのだ、ただひたすらに前だけを走るしかない。

「十二指腸はラテン語やギリシャ語で十二と指の幅……の意味からとった意味、つまり十二指腸が示したのは、“十二の指幅”時計にむかい指で幅を作れば答えが出る」

今だにアイムは苦しそうに咳込むみながら、架耶の話を聞く。怖くて恐くて架耶の服をぎゅっと握った。すると優しく髪をすいでくれる。

「大丈夫だ、安心しろ、俺が守ると言っただろう。大丈夫だ」
「か、やくん……」
「何王子様気取ってるんですかぁー。全く……。……もしかしたら…あの7人は死んでいるが死んでないのがいるかもしれません…」
「は?何を言って……」
「確かに7人には脈がなかった。そして酷い有様だった。それと同時に顔がわからなかった。のですから」

そう、レントの言う通り7人の顔は誰なのか判別不可能だった。確かにカノン、エル、ミユキ、三沢、レレナ、カリン、ステラは死んでいた。だがそれは服をみて判断したまで。顔はぐちゃぐちゃに裂かれ、目を背けたのだから。

「仮染めの身体を用意するなど造作もないはずです。だって僕達は三時間は旧館にいたのだから。もしかしたら誰かが殺し、生き残り………つけてきているのかもしれない。だから、あそこは危険だと判断したのでしょう?架耶」

薄く笑いレントがそう言えば舌打ちをする。何もかも見透かされていてため息をついた。
そして目の前にある時計塔をみた。

「わざわざ時計盤までこちらに向けていたのはそうゆうことだったんだな。俺達を試した、謎が解けるか、ただの文字遊び…くだらない」

落ち着いたアイムを降ろし、ゆっくりと架耶は歩みよった。十二と掛かれた文字盤をランプを翳してよく見ると小さな隙間。辺りを見回すと架耶の予想通りだったのか梯子があった。梯子を使い、十二の文字盤に触れる。人、一人は通れるような通路と………そして日記帳があった。投げてレントに渡す。
梯子を降りて日記帳を受け取り中を見ようとした時だった。

ユラリと立ちすくむ一つの影。それは肩を震わせて満面の笑みを浮かべて狂気に満ちた瞳でこちらを見てきた。

『あはは…はははははは!!!!!!くすくすくす、』

それは狂ったように笑うのだ。思わず目を見開き後ろに下がる。何が起きているのかわからない。その人物はケタケタとゆっくりと近付いてくる。手には凶器、護身用に館に掲げられたハルバード。それは真っ赤に血に濡れていた。

『ひゃひゃひゃ、あっははははは!!!!!!』
「ッ…!?お前が…お前が殺したのか!?」
『うふふふふ、ふふふふ!!!!!』

ゆらりゆらりと近付いては笑いながら凶器をつきつける。それは信じ難い光景だったのだ。

「―――ッ!!答えろ!!答えるんだ!!!   !!!」

架耶は精一杯叫んだ。もはや相手には伝わっていない。視界が反転し真っ黒になった。



























僕はいつの間にか倒れしまったらしい。よくは覚えていない。ただ架耶くんが僕の名前を呼ぶこと。血に濡れた凶器あとは覚えていない。きっと耳を塞いだんだ、恐怖で。恐怖のあまりまた喘息を引き起こしたに違いない。意識がもうなかった。
そして僕が虚ろな目で見た光景は架耶くんが何かを言い続けたところ。
そして優しく僕の名前を呼んだところ。

それだけだった。
僕達は勝ったのか、負けたのか……。多分……僕達は負けてしまった。

それは終わりない永遠の悪夢によって描かれたページにしかすぎないのである。



To The again....?
Next Challenge?






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