「あっ、コーリンさん!」

今日は珍しく…というか昨日のことを反省したアイチは自ら起きるようにした。そして大広間へ朝食を取りに行く途中、朝食を運ぶコーリンを見付けた。

「おはようございます、」
「お…おはよう、今日は寝坊しなかったの?」
「あぅっ、も、もうしませんよっ!」

昨日の朝の出来事はいつの間にか広まっており、アイチは顔を真っ赤にさせながらエミに助けを求めたが「自業自得…」とため息交じりに返されてしまった。

「あ、今日の朝ごはんはベーコンエッグですか?」
「当たり、よくわかったわね」
「はい。とても美味しそうな匂いだったので!それにコーリンさんが作る料理が大好きなんです!」

と、さらりとコーリンの目の前で“好き”だという言葉を発し、先導家特有エンジェルスマイルを無意識にしたアイチにコーリンは顔を真っ赤にさせ後ろ側を向いた。

「〜〜!お、お世、辞はいいから残さないで食べてよ!ふ、ふん、早く大広間に行くわよ!」
「え、あ、はい!」

料理が乗ったワゴンを押し、つかつかと早歩きで進むコーリンを、追い掛けるようにアイチも後に続いた。

******

コーリンとアイチは大広間のドアを開け、中に入った。そこには朝食を待っていた皆が長く大きな長方形型のテーブルに席に着いている。

「あっ!アイチお兄さんおはようございます!」

と、真っ先に挨拶をしたのはカムイ。そしてアイチを見たあと、そわそわとアイチの周りをカムイは見た。

「あ、あの、エミさんはまだ起きてないですか?」
「えっ?」

そうカムイに言われ、アイチはテーブルに座る人達を見た。確かにそこにはエミはおらず、おかしいなと首を傾げる。もしかすると、昨日から具合が悪そうに見えたが本当に悪く、部屋でまだ寝ているかもしれない。そう思い部屋に向かおうと振り返った途端だった。

「あれ?アイチ?どうしたの、こんな所に突っ立って…」
「エ、エミ?」
「はぁ…?妹の顔忘れちゃったの?」

と、エミは呆れながら高い位置に一つに結んだ髪を揺らした。この館には服の貸し借りがあり、自由に着れるらしい。オシャレ好きなエミは今日はチェックのプリーツスカートに白のブラウスを着ている。

「えと…今日は遅かったね?」
「あ、うん、この館広くてちょっと迷っちゃって……ってアイチ髪はねてる!ちゃんと乾かしたの?」
「本当!?ちゃんと乾かしたはずなのになぁ…!」

はねる髪を探すアイチを見てエミは腰に手を当てて「まず良いから早く席につこう」と腕を引っ張った。カムイは惚れ惚れとしながらエミを見て、ピョコンとはねる髪を触るレンにアイチは縮こまるのを見ながらコーリンとレッカはテーブルに食事を置いていく。

「ところで、今更なんだけどこの島の謎と呪いを解く、って……具体的には何を解けばいいの?」

朝食をあまり摂らないミサキは紅茶のカップを置き、口を開いた。

「だってこんな自由にしてる暇があるなら早く元の場所に帰りたい、それに実を言えば私は信じれない…いきなりこんな場所で謎を解けなんて言われても一体……」
「そうね、仕方ないわ。貴女の言うことは正論よ。だけど……“もう始まってる”の。…もう気付いてる人はいるだろうけど……ね…?」

スイコは目を細めて、横目で一瞬アイチを見た。アイチはそんなスイコにどきりと身体を動かした。

「一体どうゆう…?」
「それを解くのが貴女達の役目でしょー?ほら、食器片付けるから早く準備したー!」

ガラガラとワゴンを押しながらレッカは言った。ふわりとレッカの縦ロールの髪が揺れる。それと同時に食べかけの朝食を食べ始めた。

******

「アイチ、ちょっといいか」
「えっ?」

朝食を食べ終え、各自はそれぞれ自由に動いていた。そんな中、廊下を歩いていた櫂に呼び止められた。

「どうしたの櫂くん?」
「いや、ただ確かめたい事があってな……。この島に来て一体何日経った?」
「えっと…、今日で二日目だよ」
「そうか…」

そうアイチから聞くと、櫂は眉を潜め深刻そうな顔をした。アイチが心配そうな顔をして櫂を見ることに気付いた櫂は、手紙を取り出した。

「それ…お祖父さんの手紙?」
「ああ、祖父さんはこの手紙……この島に来て二日目の手紙に書いた手紙だ。………祖父さんによると二日目に悪魔が現れたらしい」
「え……?」

櫂のエメラルドグリーンの瞳は真っ直ぐとアイチの方を向いており、それは真実だと知る。櫂はいつぞや悪魔の存在を否定した。だが今の櫂はまるで信じてるようじゃないか。

「か、櫂くんそれ、」
「勘違いをするな。前にもいった通り悪魔などは存在しない。悪魔を被った人物がいる、ということだ」
「そ…そうなんだ…。でも櫂くんは何で悪魔じゃなくて人だってわかるの?」
「俺達は悪魔を見付けにきたミステリークラブとかではない、選ばれし者なんだろ?これは主催者からのいわば挑戦状みたいな物だ。主催者の気まぐれなのか知らないが、帰りたければ謎を解け、つまりこう言いたいんだ“悪魔はいないと言うことを証明しろ”とな」

淡々と語り終え、人がいるはずなのに静かすぎる館の廊下を見る。この館は複雑な構造になっている。玄関ホールから入り、左側にある長い廊下を抜ける途中に大広間はある。大広間を出て、また長い廊下を進み行き止まりに辿り着くと長い螺旋階段のある上に図書館がある。各自の部屋は大広間を出て、正面の廊下を進み階段を昇った所にある。

「まだこの館には俺達の知らない場所が多い。例えば、旧館とかだな」
「旧館?この館に旧館なんて…」

と、アイチが言いかけた時、振り子時計だろうか静かだった廊下にボーン、ボーンと時刻を告げる時計の音が響き渡っる。

「これだ」
「これ?時計?」
「旧館の名前は通称、“時計館”と言うらしい。決まった時間には鳴らず、いつも狂ったように不定期になるらしい」
「そうなんだ…僕、そこまで全然知らなかった…ちょっと日記帳読んでみるね」
「ああ」

後ろを向き、自室へと向かうアイチの後に続き櫂も歩く。櫂はふと心の中で思った、……悪魔が出るという事はつまり最初の死者が出ると言うことか―――。
ガチャ、と自室のドアに鍵を差し込み開く。と、それと同時に激しい頭痛がアイチを襲った。

「ッ――!!」
「おい、アイチ大丈夫か!?どうした!」
「ぃ、あぁ、痛い…!頭が…!!」

ひび割れそうな位、痛い。ふと、ザザッと何かがアイチの頭の中で横切った。それはつい昨日見たと同じ……誰かが殺される―――。

「あぁあああ!!!」
「アイチ!?しっかりしろ!アイチ!!」
「か、い…くん、日記帳…!日記帳ある…?テーブルの上…!」

そう言ってアイチはテーブルに指差した。暗い部屋の中、櫂は立ち上がりテーブルに駆け寄った。そしてテーブルの上にあった日記帳を――…。

「な、い―――?」
「え…?」

櫂は目を見開いた。そしてアイチもよろつきながらフラフラと立ち上がりテーブルの上をみた。そこには何もなかった。朝はきちんと置き、テーブルの上から避けはしなかったはずが―――無いのだ。

「うそ……!!」
「ちゃんとテーブルの上に置いたのか?」
「置いたよ!だってここから動かしてないもん!ちゃんと此処に…!!」

だが無い、アイチがいくら言っても目の前には日記帳がないのだ。今だ息が乱れているアイチに背中をさすりながらゆっくりとアイチを立たせた。

「とりあえず部屋を探――」
「ゔぁああぁあ゙!!!」

途端に誰かの叫び声が響いた。それは廊下のようで。次第に小さくなる叫び声に櫂とアイチは廊下に向かった。そしてアイチは嫌な予感が横取った。胸の中がザワザワとする。

「はぁ、ッは…!!」

胸が痛い。廊下を走るほど痛い。鉄の匂いがする、アイチは思わず眉を潜めた。誰か……誰かが―――倒れている。ゆっくりと走る足を止め、だらんと腕を伸ばした。震える足で一歩、また一歩と歩く。櫂は見下ろす。膝がガクンと下がりアイチは床に膝をつく。そこに倒れていたのは、

「カ、ムイくん…!」

ヒューヒューと苦しそうに息をしながら右目を抑え、カムイの身体には、右脚、左脚、腹部、右腕、左腕、右目、背中、をナイフで刺されていた。右目はナイフでえぐり取られ顔半分は真っ赤に染まっていた。腹部に至ってはナイフが見る限りでは10本は突き刺さっている。そしてコロリ、とえぐり取られた右目がナイフが刺さったまま転がった。
それはアイチが見たと同じ光景だったのだ。






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