『今、爆発的大人気!ウルトラレアに密着!アナタは一番誰が好き!?』

ぱらり、とページをめくる。
表紙もセンターもほぼウルトラレア一色だったテレビ雑誌。手に持っていたカリカリ君、ソーダ味に気付き雑誌を元の位置に置いた。

「ありがとうございましたー」
「っと、下がってきた、」

被っていた帽子がずるりと下がってきた。それを被り直そうと帽子を取った―――、

「お、おい見ろよ!!ウルトラレアのアイチだぜ!」
「マジだ!やっべ、俺大ファンなんだよな!」
「!!」

油断していた。バッと後ろを見ると知らない人が指を指し、騒いでいるのが目に入る。

「おい、待てよ!!」
「ひぃいい!お、追い掛けて来ないで下さい〜!」

それ程足は速くないけれど体力はまだ自信が合った。これでも一応歌っている方だから。ちらりと後ろを振り向けばまだ追い掛けて来ている。
し、しつこいっ…!!

「っはぁ、はぁ、う、嘘!?」

路地裏に入ったのが間違いだった。でもそんなの考えている余裕なんて無かったのだが。
袋小路、というものなのかな、目の前は行き止まり。
後ろからは走ってくる音が聞こえる。

「ど、どうしよう…!!」

これならレッカちゃんとコーリンさんの言うことを守っておけば良かった、外には出るな、と。
もう最悪…!!

「誰か助けて…!!っえ…!?」








「っは、やっと追いついたぜ!ここは行き止まりだから、な……?」
「お前走んの速ぇよ!って、あれ?ウルトラレアのアイチは?」
「おっかしーなぁ、確かに此処に逃げ込んだはずなんだけどなぁ」
「あっちじゃねぇの?」
「そーか?」

ばたばたばた、











「――――行ったか、」
「っ……、は、い」

薄暗い路地裏の中、アイチは助けられた。

「あの、ありがとうございます!」
「別に構わない」

すくっ、と薄暗い中綺麗に翡翠の瞳を光らせてアイチを助けた少年は立ち上がっる。

「たまたま此処を通っただけだ」
「で、でも本当に助かりました。僕、先導アイチって言いますその…」
「知っている。ウルトラレアだろ」
「し、知っててくれたんですか?嬉しい!」

アイチも手を引かれ立ち上がった。アイチはショートパンツを穿き、黒いニーハイソックスで青いスニーカー、白いブラウスに赤い細いリボンを付け、上にはボレロを羽織った流石超有名アイドル、ウルトラレアというだけあってか、とてもオシャレな格好をしている。
しかしアイチは―――…。

「あの、な、名前聞いてもいいですか?」
「俺は櫂…櫂トシキだ」
「櫂トシキ、くん、覚えました!こ、今度何かお礼を…!」
「いや、別に……おい、何か引っ掻かってるぞ」

と、櫂にアイチの肩よりも少し下側に何か釣り針のようなフック状の針が刺さっている。それに気がついた櫂はアイチに声を掛けて見るが、変な状況にアイチはわたわたとし始めてしまった。

「ふぇ?あ、本当だ!ん、うっ、取れないっ…!」
「おい、暴れるな。今取ってやるから、」

と、櫂が手を伸ばした瞬間。アイチがあまりにもじたばたしていたからなのかビリィイ!!と盛大な音を立て、ほぼ垂直に釣り針はアイチの服を破いた。


「な……」
「え…?」


カシャーンと釣り針のような針が地面に落ちる音が響く。

「お前…」
「っわああぁあぁ!!?」

バッとアイチは両手で前を隠しながらしゃがみ込んだ。耳まで真っ赤にさせて。

「み、見ました…よ、ね…?」
「いや、わ、悪い…」
「うう、お願いします!どうかこのことは秘密にして下さい!!僕が、僕が、










男だってことは!!!」

うるうると涙目になりながら必死にアイチは立ち上がり櫂に言った。そうなのだ、実はアイチは『男』なのだ。
本来、ウルトラレアは三人組の女性の構成だった。しかし四人組の構成になる話になってしまい、メンバーはスイコ、コーリン、レッカ、の三人ともう一人見つけなければいけなくなったのだ。そこでもう一人としてアイチが選ばれた。理由はアイチはその三姉妹と親戚だったから。
知らない一般人からオーディションをして、となるのが三姉妹は嫌で堪らなかった。特に反対したのがコーリン。コーリンはあまり人と関わることが嫌いだったのだ。そこで、先導アイチを指名したのが始まりだ。

どうしてエミじゃないのか、と言うのはただ単にエミはアイチにもっと目立って欲しかったりのだ。いわゆるエミはアイチが大好きなのだ。

「お願いします、お願いします!僕、なんでもしますから!!」
「おい、落ち着け!誰にも言わないから、」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ本当だ、本当だから落ち着け」

今だあたふたとしているアイチの肩を取り、落ち着かせる。
まるで今から狼に食べられて怯えている小動物状態で。

「安心しろ、俺は何も見ていない。それよりもいいのか。スケジュールとか」
「あ、ああ!そうだった休憩時間30分だけだったから…!もう戻らないと!」
「っ、おい!その格好で行くつもりか!これを着て行け」
「え…?」

ばさり、と櫂が着ていた上着を脱ぎ、アイチに渡した。アイチが「あ」と思い下を見れば服は綺麗に破れたまま。完全に着ていないのと同じくらいにはだけている。途端にアイチは羞恥が湧いてきたしまった。

「ご、ごめんなさい!ありがとうございます…!」
「ああ、いいから早く行け」
「あの!今日、テレビに出ると思うので良かったら見て下さい!また…また会いましょう!」

櫂から渡された上着を羽織りアイチは手を振りながら言う。

「また、か…会えるのか…」
「っとー!お〜いたいた!櫂また此処に居たのか?」

ととと、と何やら元気に手を振りながら櫂の友人……三和は近付く。

「本当、よく来るよなここ。こんな路地裏に誰も裏ファイトをしてるだなんて思わないしな!……って櫂?お前、どうした?顔、赤いぞ?」
「うるさい黙れ…」

三和の頭にはクエスチョンマークがある。良くわからないが何かを悟ったように三和はにやりと笑り始める。

「何かいーコトあったんだな!良かったなぁ〜!あ、そういや今からテレビ、ウルトラレア出るってな。CMで言ってた。好きだろ?ほら、あの青い子……先導アイチ!」
「何…?」
「早くしねーと見逃すぜ?ああ、でも録画してんだっけ?櫂の大好きな先導アイチー」
「だ、ま、れ」
「ぎゃっ!怒るなよ!てか上着は?着てたよな?」
「………あげた」
「はぁ?」

****


「だからあれ程言ったでしょう!?外に行くなって!!」
「すみません…」
「第一、その格好は何!?知らない男に剥かれたんでしょう!?外に行く時は私と一緒じゃなきゃダメって何度言えば…!!」

急いで戻って来てみれば、コーリンが仁王立ちでお出迎えをしてくれていた。そしてアイチは今、正座中。

「あーあ、始まった、始まったー。コーリンのお説教。もー本当に過保護なんだから!でもアイチもアイチで自業自得だけどね」
「ふふっ。そうね。収録で良かったわね」
「スイコ!そうゆう問題じゃないの!」
「こっわーい…」

カッと目を光らせてコーリンはスイコを見た。アイチはしょんぼりとしているままだ。

「それにしてもその上着どうしたの?」
「あ、えと、これは借りて…」
「もしかしてバレたんじゃないでしょうね?!」
「だ、大丈夫です!とてもいい人でした!」
「〜〜〜!!馬鹿!アイチ、当分外出禁止!後でくわしく聞くからね!早く着替えて来なさい!」
「は、はい!」

ぎゅむっとコーリンがアイチに服を渡し、言う。
―――シャッ
ウルトラレアの楽屋はとても広く、豪華な為、シャワーや更衣室まである。アイチは櫂から借りた上着を脱ぐと、途端に胸ポケットから何かがひらりと落ちてしまった。


「わ、?……カード?」


それは今流行りのトレーディングカードゲームのヴァンガード専用のカードだった。名前は『ブラスターブレード』

「か、かっこいい…!って、これは人のだから!」

また、上着のポケットにカードを入れ直す。

「クリーニングに出さないと…!」

うんしょと着替え、アイチは上着をぎゅっと抱きしめてみる。

「かっこ…よかったな。櫂トシキくん……。優しかったし、また会いたいな」

かぁああ、と顔をまた赤くしアイチは上着を畳み直す。

そなのあと二人は逢えたのか、それはまた別のお話し。







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