一期寄りレン様


「時にアイチくん、君は何故此処にいるんです?」
「え…なぜ、ってレンさんが僕を呼んだからです…よね?」

あまりにもレンさんがおかしなことを何の前触れもなく言い出すものだから僕まで疑問形で答えてしまった。そして僕はと言えば、AL4の高層ビルの一番上にあるレンさんの部屋でただ何をするわけでもなくカードを眺めている。教えた覚えはないはずが、レンさんからの電話に咄嗟に出ればたった一言「今すぐに来て下さい」だけ。待たせればまた面倒くさいため、何も持たずに急いで来てみれば次に出た言葉は「…お土産は?」と言う何とも失礼極まりない一言だったのだ。
ちなみにレンさんはただ何かをする訳でも無く高級感溢れる革のソファーに座り向かいに座る僕をただ見ている。

「ああ、そうでしたね、しかし何で呼んだのか忘れちゃいました」
「えっ」
「でもまぁ、せっかく来て貰ったんですから何かしたいことあります?アイチくん」
「あ、えと…じゃあファイトを…」
「此処に来てまでファイトしたいなんてアイチくん変人ですね」
「!?」

そう言いながらもファイトはしてくれるようだ。だがプレイマットは面倒くさいから出さないと言って敷かずにやる。そうしてファイトが始まる。先攻は僕からで、後攻はレンさんだ。ジャンケンに負けたのが悔しいのか、PSYクオリアを使いましたね、とよくわからない負け惜しみをして来るものだから思わず心の中で面倒くさい、と思ってしまった。
ファイト中には使うのに何故か最初の先攻を決める時だけ使わないからやっぱりレンさんはよく分からない。

「ところで、お呼ばれされときながら手土産一つ無いとは一体どうゆうことです?アイチくん」
「そ、そうは言われても、急いで来たから……それにレンさんが今すぐ来いって…」
「しかし僕はアイチくんの手土産に少しばかり期待をしていたんですが…何も、持っていないんです?」
「そうは…いわれても……何も―――あ、」

あまりにもレンはアイチに過度な期待をしていたらしく、赤い瞳をぎらりと輝かせて言うものだからアイチも仕方ない、とばかりにポケットをまさぐった。と、ちょうどそこには飴玉が入っていた。可愛らしいうさぎの絵が描かれたそれは子供用のど飴。はちみつ味のそれはのど飴だが、確かに美味しそうに見えた。
ぱっ、と取り出せばアイチははい、とばかりにレンに渡す。これが、お土産?とばかりに庶民ですねと言いたそうなレンは受け取ると中から黄金色の…まるで琥珀のように輝く飴玉を取り出した。

「レンさんのお口に合うか分からないですが…」
「ふむ……残念ながら僕の口には合いませんね」
「! そ、そうですか…それは残念で、むぐっ!?」

と、油断をしたアイチは一瞬自分の身に何が起きたか分からなかった。しかし口の中に広がる甘みは鼻を擽る。
レンはアイチから貰った飴玉をあえてアイチの口の中に入れたのだ。そのため、今だアイチの口の中にレンの指は入ったまま。レンは動じることもなく、しれっと顔色を変えずにいる。一方ののアイチは、と言えば少々苦しそうに涙をうっすらと目に浮かべ薄く開いた唇からはとろりと溶けた飴玉の砂糖と一緒に混じりながら唾液が滴り落ちてゆく。
ずるり、と、ようやくのことで口から指を引き抜けば力の入らないアイチの口からレンの指と一緒にことり、と飴玉も落ちてきてしまった。

「あーあー、アイチくん何やってるんですか、せっかく食べさせた飴、落ちちゃいましたよ」
「お、おとし……っ、何するんですか…!!いらないなら受け取らなきゃ良かったのに、」

かあっ、と顔が赤くなる。ごしごしと服の袖で口を拭きながらレンさんを睨むように見れば表情一つ変えずにしれっとしていた。それがあまりにも悔しい気がして、恥ずかしくて、立ち上がってティッシュを持ってくれば落ちてべとべとに溶けた飴玉をくるんだ。
何やってるんだろ、と一人馬鹿馬鹿しく思えてぽたりと頬を伝わったそれは床に染みた。

「残念ながら、僕はアイチくんがめそめそと泣く姿を見るのは大好きなので慌てたりしませんよ」
「…最低、」
「そもそものど飴なんて、風邪を引いてる人や喉の調子がおかしい人が最も最優先に口にするものですから」
「…?」

そう言うとレンさんは人差し指をすっと喉元にあてて小さな声で「喉、掠れてますよ」と、言った。続け様にまだ残っていた涙をぺろりと舐めて、僕はこっちで十分ですから、と言う。
僕はその時風邪を引いて熱が出たんじゃないか、と思うくらいに頬が熱くなって、苦しいくらいに鼓動が早くなって、レンさんを見れなくなってしまった。ああ、患ってしまったのかもしれない。これも全部レンさんのせい、おかしくなりそうだ。

「安心して下さい、僕はアイチくんに夢中なので」
「誰も聞いてないです、」
「そう言って欲しい顔をしてたので言っただけですよ。ところで、アイチくんを呼んだのには理由なんてないですよ」

小さく、低音で、囁く言葉は一瞬で。かぷりと噛まれた耳と一緒に深く刻まれた言葉は恥ずかしいくて目にうっすら涙を浮かべればレンさんは嬉しそうに微笑むものだからタチが悪い。

『逢いたかったから、呼んだんです。それくらいアイチくんなら分かって下さいね』

熱に溺れた飴玉のように、甘く、深く、溶けてゆく。ーーー患ったのは、貴方のこと。いっそのこと飴玉が蜂蜜に変わるまで溶かして欲しい、そう思う僕は我儘かな。
ねぇ、レンさん。逢いたかったのはレンさんだけじゃ無いんですよ?レンさんこそ、ちゃんと分かって下さいね。


純愛ハニードロップ
130117


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