「おい櫂、知ってるか?最近こんなの流行ってんだと!」

と、朝登校してきた櫂に突然三和は携帯の画面を櫂の顔に押し付けるように見せて来た。だが近すぎて全く見えない。

「見えん」
「わりぃーわりぃー!ほらこれこれ、」

ぱっ、と画面を櫂から離すと指を差す。そこには“レンタル彼女”と書かれたサイトがあった。

「は?」
「すげーよな、今じゃちまたで大人気なんだぜ!いつ、どんな時でも好きな時間に、可愛い女の子とデート出来るんだぜ!」

ただしデート代とかは自腹だけどな、と呟く。物凄くくだらない話を持って来た三和に呆れ寝ようとした。ら、

「おっ、これなんか櫂の好みじゃね?ロリ系、いだだだ!」

はたから見れば完全に思春期真っ盛り中の男子高校生の会話だ。三和が見せてきた画面には可愛らしい女の子が沢山写っている。しかし、櫂はため息をつけば三和を軽蔑するようにまるで薄汚い物をみるかのような目で見た。

「そんな危なっかしいサイトによくもまぁ引っ掛かるな」
「いやいや、このクラスの男子の奴らなんか結構体験してるみたいだぜ、レンタル彼女」
「売春か」
「至って健全なレンタルだよ!」

櫂は物凄くモテる癖に彼女一人としていない。櫂のオーラからして中々話し掛けれない女子はほぼラヴレター状態。そんな愛すら興味がない、といつも三和に渡し返してこいの始末。

「お前、ちょっとは可愛い女の子と二人であるかねぇとホモ扱いされるぞ!」
「知るか」
「お前なぁ〜!って、お?この子めっちゃ可愛いじゃねぇか!一位だと!」
「……」

それはリトルマリンの瞳と髪、表情はまだあどけなさを残し柔らかく微笑む……まるで天使のような……。

「おっし!決めた、この子とデートだ!」
「は?」
「だって一番人気だし早く予約しておかねぇと取られちゃうかもじゃん?ほい送信!」
「お前なぁ……」
「ちなみに4時30分!放課後デートだ!」
「どうなっても知らないからな」

騒ぐ三和を横目に溜め息をついた。そして後から櫂は物凄く後悔することになるだろう。
どうしてあの時、もっとちゃんと止めなかったのだろうかと。

「さぁて、本当どうなるだろうな。楽しみ楽しみ〜」

にやりと三和はこれまでない位に楽しそうに笑っていた。

*****

「あ、悪い教室に忘れ物した!先に帰っててくれ!」
「ああわかった」

三和はバタバタと学校に戻って行く。今日の夜ご飯は何にしようかと考えていると見知らぬ少女が校門にもたれ掛かっている。だが気にもせず通り過ぎようとした所、腕を掴まれた。

「?」
「あ、あの、櫂トシキさんですよね?」
「そうだが、……何か用か?」

そう櫂が振り向き聞くと少女は困った表情をした。顔をじっと見つめ掴んだ腕は両手で離さないようにがっちりと掴んでいる。

「用、と言うか何というか…その…レンタルを頼みましたよね?」
「……は?」
「えっ?」

二人は同時に目を丸くし素っ頓狂な声をあげた。変な沈黙が続く。あれ、とばかりに少女は首を傾けて青い携帯をひらくとぽちぽちと弄り始めた。そしてよく見ると「あってる」と呟いて画面を見せた。

「これ櫂さんですよね?」
「…………な…」

櫂はピシリと固まった。携帯の画面には櫂の写真が写っており名前までもばっちり書いてある。全く身に覚えがなく悩むと朝の出来事を思い出した。それは三和が“レンタル彼女”の話をしデートを申し込んだ……。

「あいつ…そうゆう事だったのか!!!」
「ふぇ?」
「…焼き殺す。……悪いがそれは人違いだ。確かにそれは俺だが申し込んだのは俺じゃない。だから帰ってい、」

そう言って腕の輪から抜けて帰ろうとしたらまた捕まれた。
一体まだ何があると言うのだ、櫂は少々面倒臭くなり溜め息をついてしまう。

「まだ何かあるのか」
「う、あ…あの、今帰られるのはちょっと困ると言うか…いえかなり困ると言うか…ですね…」
「は?」

口をもごもごと動かし、かなり申し訳なさそうな顔をしながら腕を掴んでいる。
困ると言われてもかなりこっちも困るのだが。

「とても言いづらいんですが、その…僕ストーカーに合ってて…。それで毎日毎日電話やメールがしつこいほど来て…。でもこうゆうお仕事やっている以上断れないし……そ、それで彼氏がいるから無理と言った所、見せろと言われて……」
「……それはまさか…」

櫂がそう聞くと「う゛」とだらだらと汗をかきながら俯いていた顔をゆっくりと上げ涙目になりながら上目遣いで顔を真っ赤にしてきた。その表情は爆弾兵器そのもので……。

「ごめんなさい!櫂さんを利用しちゃったんです!し、失礼な事だってわかってたけど、でも、で…うあぁああぁん!」
「!?」

ここでいきなり泣かれるなど予想をしていなかった。持っていた鞄がドサリと地面に落ちる。高校生がいかにも年下に見える少女を泣かしている風景など教育上よろしくない。通る人はみな櫂を邪険した目で見る。立場的にも完全に櫂の状況はよろしくない。

「な、泣くな!わかった!少しだけならいい!そしたらすぐ帰れよ!?」
「……ほ、本当ですか?」
「ああ、本当だ。少しだけなら許「ありがとうございます!わぁ〜良かったぁ!」
「………な…」

けろりとさっきまで泣いていたのが嘘なのかのように顔を輝かせた。そして櫂の手をとり上下にぶんぶんと振り回す。

「あ、僕先導アイチ、って言います。よろしくお願いします」

にこり、とアイチは微笑んだ。水玉の藍色のワンピースと白いカーディガンが風で揺れた。
天使か、と二度も思ったのは口に出さなかった。

****

「櫂さん、何処に行くんですか?」
「知らん」
「えっ、で、でも放課後…デートなんじゃあ……」
「それは三和が決めたことだ」
「みわ?」
「…クラスメートだ」

そう言うとアイチは「ほほぅ」と頷いた。と言うか本当にこれから何をすれば良いのかわからない。ただ歩くだけで一体何処に向かっているのかすらわからない。アイチは俺の斜め後ろにまるで子犬の如くピョコピョコついてくる。

「あっ。じゃあいつもお客様が連れてってくれる場所に行きますか?」
「お客様、か……。……別に何処でもいいが」
「…? はいっ!」

アイチは一体何の目的でこんな仕事をしているのか、あくまでこれはお仕事なのか、俺は騙されているのではないか……その時の俺はそんな疑問を抱いていた。


「此処です、」

と、にこりと天使の如く可愛らしく笑ったアイチは指を差した。俺は思わず「此処か」と言ってしまいそうになった。
とにかく此処は何だ…あれか、嫌がらせなのか。と言うかお客様が連れてってくれる場所などこんな………。
櫂の目の前に広がったのは、色鮮やかな場所。ピンク、赤、黒、水色、白、レース、ヒョウ柄……。つまり此処は、“ランジェリーショップ”だ。

「これはどうゆう嫌がらせだ…」
「えっ!?あ、あの、違うんですか!?」
「当たり前だ!!!」

櫂に怒鳴られてアイチはわたわたとした。頭にはクエスチョンマークをつけて「ふぇえ」と唸っている。櫂は額に手を当てて呆れた様子でアイチの手を引いく。

「ひゃっ!?」
「お前は馬鹿か、あんな場所にホイホイついて行くな」
「で、でもお客様が…」
「先に自分の身を安じろ、俺はデートなどした事はないから知らんが……もう少し周りを見ろ」
「は、はいっ!ありがとうございます、櫂さん」
「……“仮”でも敬語はやめろ。い、一応…付き合ってる設定なんだろ」

ごにょごにょと最後の方は消えかかった声で、耳を真っ赤にする櫂を見てアイチはなんだか可笑しくて笑った。繋がれた手を照れながらアイチは握り返す。

「うんっ、櫂くん!」

*****

「あっ、あれ…可愛い…!」

手を繋いだまま通りを歩いていた二人だったが、アイチが立ち止まった。そしてするりと櫂の手から抜けると一人で走って行ってしまう。

「お、おい!アイチ!勝手に一人で行くな!」
「ご、ごめんなさい、」

アイチが見ていたのはユーフォーキャッチャーのショーケースに入っていた犬のぬいぐるみだった。がやがやと学生で放課後に賑わう此処はゲームセンターだと気付く。犬のぬいぐるみを見つめるアイチは耳としっぽを振るわせる犬に見えた。……ややこしい。

「それ欲しいのか」
「あ、…ううん、違うのただ…その……。ご、ごめんね、何でもな――」

と、アイチが言いかける中、櫂は財布を取り出すと百円玉を入れ始めた。そしてアームを動かして犬のぬいぐるみを狙う。

「えっと…か、櫂くん?」
「何だ」
「お、お金勿体ないよ!」
「大丈夫だ」
「あうぅ…」

意外にも難しいらしく櫂は百円玉を次々に入れていく。持ち上がるには持ち上がるのだが中々難しい。そんな様子をアイチはどうする事も出来ずオロオロとし始める。

「か、櫂くふもっ!?」
「とれた」
「ぷはっ、ふえっ?何が……わぁ…!」

櫂に押し付けられたそれは、アイチが目と鼻の先にあった犬のぬいぐるみ。下を出し、愛らしくアイチを見つめる瞳にきゅんきゅんし、もふもふと抱き着いた。

「やる、」
「ほ、本当!?ありがとう櫂くん!わぁああ、すごいすごい!僕宝物にする!」
「いや、大袈裟だろそれは。落ち着け落ち着け」
「かわいいー!ふかふか、もふもふ!えへへっ」

櫂の話は耳に入っていないのか今だに嬉しそうに笑いながら犬のぬいぐるみにほお擦りをしている。正直ここまで喜んで貰えるなどと思ってなかった櫂は不意をつかれてしゃがみ込んだ。

「どうしたの櫂くん!?ぐ、具合でも悪いの!?」
「……いや、問題無い」
「本当……?なら良いんだけど…。そういえば此処って…何?いっぱい小物とか…音楽が鳴ってる…」

櫂は目をぱちくりさせた。アイチは興味深そうにゲームセンターを見ている。どうやら本当に知らなさそうだ。

「お前…知らないのか、ゲームセンター」
「ゲームセンター…?う、うん。初めて見た…」

初めて見た、などと言う言葉は初めて聞いた。
櫂はしょっちゅう三和に連れていかれ、相手をさせられる。普通なら知っているとは思ったが、アイチは“普通じゃない仕事”をしているのだ。何か事情があるのだろうと悟る。

「…なら、行くか。最初の行き先は此処でいいな」

そう言って櫂はアイチの手を引っ張り、ゲームセンターの中に入って行った。





続き




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