今日は“きゅうじつ”じゃないから櫂くんは学校に行っている。今日の朝もいつものようにピンポンされても出ちゃいけないとかお昼ご飯とおやつは冷蔵庫にある、とか言って櫂くんは行ってしまった。
櫂くんは一人暮らしだから他には誰もいない。というよりも一人暮らしなのにとても広いお部屋。櫂くんに迷惑とか心配とか掛けちゃいけないから言わないけど本当は寂しい。一人はやっぱり恐いなぁ。

「今日も…雨…にゃあ…」

昨日と同様に雨降り。
昨日はとても楽しかったなぁ。初めてバトルしてみたけど、カムイくんもミサキさんも三和くんも皆優しくて……。
僕は本当に幸せ者なんだ。
櫂くんに拾われる前のことはよく覚えていない。ううん、思い出したくない。

気が付けば雨が降っていた。虚ろな目で僕は辺りを見渡したんだ。自分が一体誰なのか、何故此処にいるのか……いや此処がどこなのかわからなかった。
ただわかることは僕は皆と違うことだけだった。僕を見る皆の目が恐かった。言葉はよくわからない、けど何となく口の動きと目でわかったんだ。僕を見た人達は必ず言うんだ、

『化け物』
って。皆同じ口の動き、意味なんてわからなかったけど僕は皆と違う、わかったんだ。ここに……いちゃいけない存在だってことが…。

だから雨の日は嫌いだった。目が覚めると僕はいつも雨の中にいた、どこかヒトのいない所に逃げて隠れてた。生きている意味なんてなかった。生きたい、なんて思ったこともなかった。何かを考えようとすると頭が痛くなった。まるで思い出させないとでもいうかのように。
僕には不思議な力があった。生きたい、なんて思ってなかったのに何故か目が覚めれば僕はいた。冷たい雨に打たれながら生きていた。殴られた所も蹴られた場所もゆっくりと手を翳すと治ってしまっていた。

わからない、自分が一体誰で何の目的があって―――。

そう、また目を開ければいつもの光景だった。お腹と顔が痛い。また……殴られたのだろうか。痛いのは嫌い、恐くて、寂しくて……一人に馴れずに震えていた。
………ヒトの歩く音が聞こえる。ぱしゃん、って水が跳ねてるからわかるんだ。きっと僕に気付いたのかな、一応隠れてたつもりなのに。また殴られて蹴られていつものように言われるのかな『化け物』って。
慣れればいいのに、慣れないんだ。恐い、すごく恐い。だから目を閉じていた。耳を塞いだ。
そんな僕に手を出してくれたんだ―――…。


「………俺と来るか?」


顔をあげた。そう言ったヒトは手を差し出したままで、僕をじっと見ていた。いつも僕を見て言う言葉じゃない、このヒトは―――。
懐かしい感覚。僕のどこかの記憶にあった……手を差し出してくれた同じ記憶。誰なのかは覚えていない、けどとても懐かしい―――。
だから手を取った。何処かで僕は助けを求めていた、だけど恐かった。信じることが。櫂トシキという名前のヒトはとても優しかった。どこか不器用でなのにとても一生懸命で優しくてすごく格好良くて……櫂くんの隣にいるだけでとても温かくなるんだ。







「アイチ、此処で寝ると風邪を引くぞ、」
「んぅ……?」

櫂くんの声。ゆっくりと目を開けると櫂くんが立っていた。まだ寝ぼけた状態で目を擦りながら身体を起こした。時計を見れば7時………。テレビがついたままどうやら随分とよく僕は寝てしまってたらしい。身体には毛布が掛かっている。

「夕食、食べるか?」
「ぅん……食べる…」

ソファーから立ち上がり櫂の後に続くようにペタペタと裸足でテーブルに向かう。

「櫂くん、櫂くん」
「何だアイチ」
「……お帰りなさい」

僕は生きたいと思った、まだ自分のことはよく知らないけど櫂くんが「それなら少しずつ知ればいい。…一緒にいてやるから」って言ってくれた。僕はここにいてもいい………櫂くんの隣にいてもいい。それを教えてくれた櫂くんに僕は何かをしたい、報いたい……。

「ああ。ただいま」

自惚れてもいいのかな、僕の居場所は此処だって……。






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