『   、これはこうするんだぞ』
『あっ! ばっかりずるい!僕にも触らせて!』
『おい、こらあまり騒ぐなよ。震えてるぞ』


楽しそうに話す声がする。とても懐かしい声……。でもなんでだろ?誰一人として名前が聞こえない。一体…誰?


『ほら、これをやるよ!白く輝く光の騎士だ!イメージはお前の力になるんだぜ!』


白く…輝く光の騎士…?
それって……。あれ?何だろうこれ、僕はこの光景を覚えてる?


『ん〜いい子ですねー!撫でてあげます。おお、ふわふわしてます!』


この声も僕は知っている。でもこれは一体何?わからない、何?


『やめろ!そんな事、望んでなんかいない!

アイチ!!!』








はっ。
ぱちりと目を開いた。ゆっくりと目だけで部屋を見渡せばいつもの櫂くんの部屋。自分は柔らかいベッドにいる。隣には櫂くんが寝ている。もぞもぞと動きベッドの上にある時計を見た。まだ七時……。


「もう起きたのかアイチ」


ぱちりと櫂くんも目を開けてこっちを見ていた。朝が苦手な櫂くんはまだ眠たそうで。


「う、うん…。なんか目が覚めちゃって……」
「そうか」


よっ、と櫂は起き上がった。それに吊られてアイチも身体を起こす。ふと耳を立てると外からは雨音が。


「今日は雨か」
「そう、みたいだね」


雨は嫌いだ。いつもそう。
雨の日に、僕はいつも捨てられている。寒くて、怖くて、ただ震えることしか出来ない。櫂くんと会った時も雨だった。あの日、僕が――――。


「え…?」
「どうした?」
「あ、ううん!何でもないよ!」


ふるふると首を横に振った。今僕は何を思ったんだろう?あれ、おかしいな思い出せない。思い出そうとすると頭が痛くなる。
変なの。あの日って…?


「…今日は休日だからカードキャピタルに行くか?」
「きゅ…じつ?」


何だろうそれは、と首を傾げてみる。
きゅ、う…じつ…?


「休日、な。学校が休みな日だ」
「学校がお休み…!!」


それを聞いた途端アイチの耳としっぽがピン!と立ち上がった。
……っ、可愛い…!


「(? 櫂くん笑ってる…?)カードキャピタル、行きたい!」
「わ、わかった。わかったから抱き着くな、」


思わずしっぽをぎゅむっと握りそうになった。
その証拠に手がわきわきと怪しい動きをしている。アイチは気が付いてはいないが。


「えへへ、ごめんね。嬉しくて…」


ぱっとアイチは櫂から離れた。微妙に櫂は名残惜しそうに手を下ろす。


「にゃー♪にゃ、きょーはー鯛の日ー」


何やら上機嫌でリビングに向かって行ったアイチ。よくわからない歌を歌っている。
鯛…?……タイヤキでも食べたいのか?まぁ、いいかと思いながら櫂は着替えることにした。


****


「むぐむぐ…」


アイチが美味しそうに朝食を食べると同時にしっぽがユラユラ揺れる。無意識に目がいく。
そういえば連れて行くとは言ったが、耳は隠せてもしっぽは隠せないな。この前は人通りもあまり無かったから大丈夫だったがさすがに今日は休日だ。少しばかり、目立つ…。


「せめてしっぽは隠せたらいいのだがな…」
「隠す…?櫂くん」
「なんだ?」
「しっぽ、しまうことできるよ?」
「な…何だって!?」


思わずガタリとテーブルを叩いてしまった。
ものすごく驚いたからだ。まさか隠す…いや、しまうことが出来るなんて。収納可能なのか、性感た……じゃなくて、しっぽは。あTheとい。


「待っててねー、…ほら、」


くるり、とアイチが後ろを向けばしっぽは無くなっていた。


「本当に、ない…」
「ついでに耳もしまえるよ?」
きゅっと目をつむり力を入れればアイチのアイデンティティといってもいい猫耳としっぽが無くなった。


「で、でも耳しまうとなんかムズムズするんだよね」
「み…耳は出したままでいい」
「本当?良かった、」


ほわ、と息を吐いた途端にぴょこん!とまた耳は出て来た。やはり耳はあったままでいい。なんだか落ち着く。
ふわふわ、


「むひゃあ!?」
「……」
「か、櫂くん、い、きなり触っちゃだめだよ…!くすぐったぃ…!」


はふはふと息を吐きながらアイチは言うがむしろ逆効果。耳の中、親指を少し奥に入れて触る。撫でるように摩るように少し揉みながら触る。そうするとアイチは顔を真っ赤にし、震えながら動くのだ。
って、待て。これじゃあ俺は変態みたいじゃないか。だが動く手が止まらない。いや、変態じゃない、ちょっと待て、






「それは変態だろっ!!」


びしり!と三和は俺を指差して言った。だから、なんでこいつは人が考えていることを……。


「お前、声に出てるんだよ!いや、なぁ。わからねぇ事も無いぜ?そりゃあアイチの耳気持ちいいし、可愛いしアイチは。だがそれは変態だ。って、いででででっ!キブキブ!」
「…お前に言われると腹が立つ」
「ごめんなさい!すいませんでした!もう言いません!」


首を絞めていた腕を離した。わかってる。わかってるが、三和に言われると腹が立つんだ。二回も言ってしまった。


「それでですね、ここにこうライドして…」
「そっか!ありがとうカムイくん!とってもわかりやすかったよ!」
「い、いえ、そんなこと…」


アイチがにぱりと笑えばカムイははデレデレ状態になる。休日だから沢山来ると思ったが今日はあいにく雨のため、人はいつもの俺らだけだった。


「それにしてもアイチさん、飲み込み早いですね!」
「そ、そうかな?」
「ええ!まるで初めてじゃないみたいに!」
「えぇ?そ、それは無いよ!カムイくん褒めすぎだよ…」


まぁ、確かにアイチは飲み込みが早い。これならファイトが出来るんじゃないか、って位に。


「じゃあ、アイチさん!実践してみましょう!」
「えっ?で、でも…」
「大丈夫ですよ!勝ち負けなんかじゃなくて楽しくやりましょう!」
「そ…そうだね!うん、お願いします!」


楽しく…か。懐かしい言葉だな。俺も言っていた時があった。昔だが…。だがあんな日はもう来ないだろう。もうアイツはいないのだから。……アイツ…?
ちょっと待て、アイツとは誰だ?俺と、あと二人ははっきりと思い出せる。
なのに、あと一人…?


「っ、わぁあ!」
「う…嘘……」


と、ファイトをしていたアイチとカムイの声が聞こえた。どうやら決着がついたらしい。


「か、勝ったの…?」
「凄いです!アイチさん初めてなのに!」
「カ、カムイくんわざとだよね…?」
「違いますよ!だってアイチさん初めてなのに、グレード3で、扱い条件がとても厳しいソウルセイバードラゴンを使って勝ったんですよ!?こんなのマグロな訳ないじゃいですか!」


むん!とカムイは目をキラキラ輝かせながら言った。しかしカムイの言葉を聞いた皆は首を傾げる。


「マ、マグロ…?」
「馬鹿ね。マグロじゃなくて、まぐれでしょう」
「あっ!!」


ミサキはため息をつきながら呆れたように言った。カムイは顔を真っ赤にさせながら笑っている。吊られてアイチも笑った。


「マグロ…かぁ…!美味しそうだね」
「(やはり猫だな)」
「でも本当にアイチすげーなぁ!才能あるぜ」
「そ、そんな事…!」


三和は凄いとばかりに褒める。
僕が…僕が強くなったら櫂くん、僕とファイトしてくれるのかな?そうすれば、もっと櫂くんに近付ける…?


「決めたぜ!俺は今日からアイチお兄さんと呼ぶ!」
「なんの根拠よ…」
「お、お兄さん!?」


皆で笑い合う。櫂くんも何処か嬉しそう。櫂くん、櫂くんって思えば思うほど一層どきどきが止まらない。
三和くんならこれわかるかな?僕が強くなれば櫂くんも喜んでくれる?もっと笑ってくれる?
僕が…僕が強くなれば……。


『強くなったらきっと喜んでくれますよ』


「ぅ、あ…!!」
「アイチ…!?どうした大丈夫か?」
「か、いくん、」


何かを思い出そうとすると頭が痛くなる。朝聞いた声と同じ…ふらりとしゃがみ込む。すると櫂が駆け寄りアイチの肩をとった。


「アイチお兄さん大丈夫ですか?!」
「んにゃ…、大丈夫、ちょっと目眩がしただけだから」


にこりと笑う。それでも今だ頭が痛い。早く忘れよう。やっぱり僕は雨の日が嫌いだ。でも……。僕は光を見つけたんだ、僕を照らしてくれる暖かい光を。だから何も思い出したくない、放したくない、


『お、ねがい…!もう、こんなこと二度と起きないように、僕を忘れて…!
櫂くん…!!』


頬から伝わる雫は、涙なのかそれとも雨なのか。
ただ雨音と一緒に消えていく、雨の降るあの日を僕は思い出してはいけない。





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