もしかしたら朝よりもひどくなってきたかも、と痛む二の腕やふくらはぎ、太ももを摩る。そしたら、森川くんと井崎くんに年寄りか、って言われちゃった。
でも、痛いものは痛いんだから仕方ないよ……。


「う〜〜…」
「 アイチ大丈夫か?」
「なっさけねーな、森川様を見習え!痛みなんてなぁ、気合で失くすんだよ」
「気合はさすがにムリだろモリカワ…」


森川くんはすごいなぁ、今日も元気に動き回ってて、尊敬しちゃうよ。僕も森川くんみたいに気合で治せたらどんなにいいのかな…。井崎くんも井崎くんですごいや、全然平気そうなんだもん。
いっつも運動なんてしないから、僕にはこの痛みは辛いや。うーん、今日もカードキャピタルに行くのはやめよう。家でおとなしくしてよう。


「って、なんだぁ?あの人集りは?」
「ん?どれどれ?うわ、すげー。なんだろうな、あれ」


そう言って、森川くんと井崎くんは指差した。人集り、とは言ってもいるのは女の子ばっかり。僕も一緒になって、なんだろうね、と返してみたら見覚えのある明るい髪色。
……あれ?もしかして…。


「三和じゃん!」
「おっ?あ、ようやく来たなー、待ってたんだぜ?来るのおせーから待ちくたびれたぜ」


一番最初に声をあげたのは井崎くんだった。途端に三和くんを取り囲む女子は僕たちをみて、ひそひそと何かを言っている様。
なんだか、もやもやしてきちゃって僕はわざと三和くんから視線を逸らす。身体中が痛くて、井崎くんに支えて貰ってたからちょっぴり寄りかかってみたり。


「アイチは…今日もカードキャピタル来ないだろ?」
「…うん、行かないよ」
「こいつ、情けないことに筋肉痛で身体中が痛くて動きたくないから行かないんだとー。ったく、昨日も行かないしで、俺様の最強デッキの相手出来なくて残念だよな、アイチは」
「お前は普通の構築されたモン使えば普通に強いのにな」


確かに森川くんはちょっと自分で作ったデッキのバランスが悪いだけで、ちゃんとバランス良くなったデッキを使えばそれはそれは、強い。もしかしたら、櫂くんともいい勝負が出来るんじゃないか、ってくらいに。
でも、森川くんからG3とったら何が残るんだろう……と思ったことは内緒にしておこう。


「じゃあ、僕は帰るね。二人ともごめんね」
「明日は絶対行くんだからな!」
「うん、」
「じゃーなー」


重い足取りで、ふらふらと僕は帰る。敢えて、三和くんには声も掛けずに、顔もみないで。……別に怒ってるとかそんなんじゃないけど…。ただ、三和くんはすぐ女の子にデレっとしちゃうからダメなんだ。そもそもなんで、あんなとこに三和くんはいたのかな。
三日は会ってなかったから、三和くんの姿をみた時はちょっぴり嬉しかったけど……。


「おい、アイチ待てよ!」
「!?」


なんて思ってたら三和くんに腕を引かれた。恐る恐る振り返れば、何故か三和くんが不機嫌そうな顔。


「なんで何も言ってくんねぇの?俺がいたの気付いてたろ?」
「……」
「はい、俯かなーい。ちゃんと俺の目を見ろって。今日、本当はアイチとカードキャピタルに行こうと思ったけど、まだ筋肉痛酷いみたいだし、送ってこうと思ったのにお前は無視するし」


困った、とばかりに三和くんはため息つくけど僕だってこんなところで引くような人じゃない。ちらりと三和くんを上目遣いで見たあとに、未だ後ろにいる女子の軍団を見た。
僕と、三和くんはどんな関係なんだろうと気になっているみたいで。それがなんだかたまらなく嫌で持っていた鞄に力を加える。


「ん?あれ、アイチ、もしかして妬いてんの?」
「べ、別に女の子なんかに妬いてないよ!」
「あれ、俺は別に『女の子』なんて単語出してないけど?」
「な、ぁ、あぁう…!!み、三和くんのいじわる…!!」


なんて僕は馬鹿なんだ。
きっとこれは三和くんの作戦だったに違いないのに。まんまと僕はハマってしまった。その証拠に、三和くんはニヤニヤと僕の反応に満足そうに笑いかけて来る。


「アイチの帰り待ってたら寄ってきたんだよ。大丈夫だって、俺はアイチひと筋だからよ!」
「…聞いてないもん、そんなこと」
「あの女子が見てる中、アイチにチューだって今平気で出来るぜ?試してみ、」
「い、いい!試さなくていい!」
「こうゆうときだけ素直だな…」


三和くんはどうやら本気だったらしく、ぐっと顔を近づけてきた。でも、それは僕の手によって即終了。ぐいぐいと両手で三和くんの顔を抑えれば不満そうな声が聞こえる。
う、嬉しいけど、皆が見てる中でなんて絶対の絶対にむり!


「まぁ、仕方ねぇな。今日のところは勘弁しててやるよ。とりあえず、俺の家に連行な」
「な、何言って、うわぁ!?三和くん何するの!?お、おろして!おろしてぇええ!!」


三和くんは意味不明な言葉を言ったあとに僕をひょいっと持ち上げてしまった。僕の言葉は三和くんに届いてるはずなのに、完全無視。
後ろで女の子の黄色い声が聞こえたような気がするけど、僕にとってはそんなことよりも恥ずかしさで頭がいっぱいになった。

三和くんのお家が街の方じゃなくて、本当に良かったと安堵している。あのあと、本当に三和くんは降ろしてくれず、三和くんのお家まで本当に僕は連行されてしまったからだ。
現に僕は三和くんのお部屋にいる。今日が始めてって訳じゃないけど、三和くんの匂いがするお部屋はなんだか緊張と落ち着きが変に混じって、結果的にはやっぱり落ち着かない。というか、なんで僕は三和くんのお家にいるんだろう……。


「アイチ、お待たせ。じゃあ、はい、ベッドに横になって?」
「……はい?」
「あと、上脱いでな」
「え、あの、三和くん?い、いきなりそんなこと言われても、えと、心の準備ってものが……」
「大丈夫だって、別に初めてじゃないだろ?」


なんで、そんなことを意図も簡単にへらりと言っちゃうの三和くん。
た、確かに初めてってわけじゃないけど、いきなりすぎて…その、ね…?それに今日とかは身体が昨日の体育のせいで筋肉痛で動かせれないから、あ、あんまり……。


「ほら、さっさと脱いで、横になれよ」
「で、でも、今日は…」
「湿布、貼った方が楽だろ?」
「…………しっ、ぷ……?」
「湿布」
「……」


しばし、三和くんと僕の会話に時間が空いた。どうやら、完全に僕の勘違いだったみたい。三和くんは筋肉痛で動けない、と思ってる僕にわざわざ湿布を貼ってくれるみたいで。
僕、すっごく恥ずかしい……。


「アイチくんのえっち〜」
「な、なんでそんなるの!!も、元はと言えば三和くんが…!」
「はいはい、悪かったよ。ごめん、ごめん、とりあえず湿布貼ってやるからさ」
「うぅ……」


そうやって、いっつもいたずらする三和くんは本当にいじわる。
貼ってくれるって言うから、言われた通り上着を脱いだ。中に着てたタートルネックまで脱いだらさすがに寒いからそれは脱がなかったけど。ベッドにうつ伏せになればふわりと三和くんの匂いがもっとした。なんだか僕、変な子みたい……。
うん、考えるのはやめよう。
シングルベッドよりも少し大きめのベッドは、僕の体重と三和くんの体重が重なってスプリングが少し跳ねた。ギシ、と音がすると背中にひんやりとした三和くんの大きな手が触れて、ちょっとびっくりして身体も少し跳ねた。貼るぞ、と声がしたと思ったら、さっきよりも一層冷たいものが背中にぴったりとくっついて、思わずぎゅっとベッドのシーツを握りしめた。


「っ、うぅ…、つめたいぃい……!」
「我慢しろって、我慢。てか、なんで背中痛いんだよ?体育なにやったの?あとふくらはぎにも貼ってやるよ」
「バドミントンだよ、あれ、腕とふくらはぎと太ももにすごく来るね…」
「背中関係なくねぇか?」
「背中は昨日、体育のときにシャトル踏んじゃって後ろに転んだから…」
「お約束、だな」


笑い事じゃないのに…。本当に昨日は痛かったんだよ?背中に一番衝撃きて、皆には呆れられながら笑われたりして……。


「……ところで、さぁ」
「ん?なぁに、三和くん?」
「俺だからまだ許すけど、お前、他のやつだったら今みたいに素直にすんの?」
「他のやつ?どうゆう意味?」


三和くんの言ってることがイマイチよくわからなくて、首だけ三和くんの方に向ける。(とは言っても、全然回ってないけど。)
なんだか変な雰囲気で、三和くんは冗談を言わなくなったから強張ってみたら、またギシッとスプリングの音がする。あ、と思ったときにはぐっと身体を起こされたかと思うと、ボスッと今度は僕はベッドの上に仰向けになっていた。よくわかんないけど、きっと、三和くんに押されたんだと思う。


「み、三和くん?」
「男の家きて、ベッドに上がったら普通はこうかるんだぜ?」
「ちょ、ちょっと待って!冗談…じゃないの?」
「最初は冗談だったけど、なんかアイチが可愛いから今は、本気」
「言ってる意味がサッパリ…なんデスガ……」


いつもの無邪気な笑顔は見せてくれず、代わりに見せてくれたのはぎらりと目をした獣の三和くんで。ダメ、今日はダメなんだよ、だって筋肉痛が痛いし、湿布貼ったくらいじゃ僕の背中の痛みは無くならないんだよ?
この状況で、逃げれるものなら誰か教えてください。


「だ、ダメだよ三和くん!僕、背中まだ痛いし、その、足の筋肉痛とかひどいし、それにそれに、」
「心配すんなって、そうだ、太ももに湿布貼ってやるよ。だから、今度はズボン脱いでもらわねぇとな」
「え、遠慮しますぅうぅううう!!!」


三和くんの匂いで溢れていたベッドはいつの間にか湿布の匂いになっていて。
もう三和くんに湿布なんて、貼ってもらわないんだから!!
そのあと、痛くなった腰に三和くんが湿布を貼るって言い出したけど、とりあえずグーで殴ることにしたのは言わないでおこう。





湿布とぼくと三和くんと
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