アダムの林檎


櫂←闇アイチ



全てが欲しかったのかもしれない。
と、手を伸ばせば掴めるモノが何一つとして無い自分に嫌気がさしながら嘲笑い瞬きをした。

光も闇も同じ、僕は僕なんだと言った『僕』は今でもそう言えるのだろうか?
昔、人類が生まれる前、地上で過ごす前の話。楽園の話を思い出した。蛇に唆されて禁断の果実を口にした何とも愚かなアダムとイヴの話………。
しかし、だ。禁断の果実と言われると欲しくなるのは何故だろうか?皆触れることの出来ない……つまりそれはチャンスなのではないだろうか?
だってその“禁断”には誰も近寄らない。その禁断はどんな財宝や富、地位よりも気高い場所にあるのだ。それを目の前にして何故皆手に取らない?

それはただの意気地無しだ、弱い生き物の証拠だ。欲しいなら欲望のままに奪えばいいのだ。だってそれは“禁断”なのだから。



「そう、やっぱり櫂くんは弱い。弱くて惨めで何にも役に立たない。誰も救えないじゃないか………」



お腹が痛い。僕は今、お腹を抱えて笑っている。なんて情けないくらいにみっともない姿なのだろうと思いながらも滑稽で仕方ないのだ。



「そうだよ櫂くん、僕は弱い、弱虫だ。一人逃げてただ、ただ来るはずのない君の助けを待っているのだから……」



例えば、禁断の果実に触れてみたら僕はどうなるのだろうか?
例えば、君が禁断の果実に触れてみたら君はどうなるのだろうか?
例えば、僕は存在してなかったら一体僕は誰なのだろうか?


欲しいなら奪えばいい。
欲望のままに。
禁断などそんなものに捕われずにただ手を伸ばせばいい。
そして君の隣にいる僕は“僕”じゃない。光と闇は同じじゃない。


そう、どちらかを選ぶしかないのだから。
しゃくりと噛んだ果実の果汁は喉を伝わり溶けてゆく。そうして僕は禁断に近付いてゆくのだ。




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テーマ「人外ファンタジー」
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