飾らないのが好きなのです


レオアイ



シャーリーンとジリアンを朝から見掛けない、とレオンは一人街中を歩いていた。歩く度にひょこひょこと金色の三本の触覚は揺れ動く。
最も、レオンが探す相手はシャーリーンとジリアンよりもただ一人の存在だ。
名前を“先導アイチ”。風のようにふわりと優しく包み込む微笑みをレオンに向け、風の如く一瞬でレオンの心は奪われてしまった。以来、何かと理由をつけては恋する乙女のようにレオンはアイチの影を捜す。

と、ふわりと風が吹いた。この風は紛れも無いアイチの風。暖かくて心地好い。レオンの心はただそれだけで安らぐのだ。
が、何かが違った。確かにアイチの風なのだが何かが………。そうだ強いて言うなら、香、だ。



「……? せ、先導!」
「ほぇっ?」



ファンシーなぬいぐるみショップをガラス越しに覗いていた青い髪とピンとたったアホ毛のあるアイチを見付けるとレオンは声を掛けると同時に腕を掴んだ。
驚いたのか、アイチは素っ頓狂な声を上げ大きな瞳をくるりとレオンに向け、二、三回ほどぱちぱちと瞬きをした。



「レオンくん…!?えと…こんにちは?」
「こんな所で何をしている」
「え、あ……ちょっとぶらぶらと散歩…かな?」
「何で貴様は疑問形で答えるんだ……。いや、そもそもだな……」



平然と装ってはいるが、レオンは内心一番驚いていた。偶然すぎて運命ではないのか、と。いつも一緒(?)にいる櫂の姿がないことに歓喜を覚えたのは秘密だ。
だが一番気になっていたのは匂いだ。レオンは顔を近付けると、公衆の場にも関わらずくんくんとアイチの首筋に近寄り匂いを嗅ぎはじめた。



「!? レ、レオンくん?何をして……」
「違う」
「え?」
「匂いが違うと言っているのだ」
「匂い……?あ、うん、そうなの!」



急に手をぱん!と叩くとニコニコと笑い始めた。まるで今日は前髪を切ったの、どう?とでも聞いてくるような屈託の無い純粋な笑顔……。



「さっきね、ジリアンさんとシャーリーンさんに香水?を付けて貰ったの。なんか凄くもめてたけど、いい香だよね」



そう言うと同時に、ファンシーなぬいぐるみショップから出て来たのはシャーリーンとジリアンだった。シャーリーンは腕には大きなカピパラのぬいぐるみを抱えている。



「レ、レオンさま!?」
「あっ、レオンさまだ〜」
「馬鹿ッ!!頭を下げなさい、頭を!!!!」
「も〜、ジリアンうるさーい。アイチちゃん待った?」
「全然待ってませんよ、むしろその……ちゃん付けをやめて貰いたいんですが……」



いつの間にこんなに仲良くなったのだろうかと疑問を抱きながら、アイチにべたべたと引っ付くシャーリーンに思わず嫉妬をしてしまう。それに気付いたジリアンは急いでその仲を引き裂くように、シャーリーンを引っ張った。



「そういえば、ア…先導に香水をつけたと言っていたが……」
「はい、いい匂いですよね〜」
「もっと礼儀正しく言いなさい!」
「ジリアンこわーい」
「だからか……」



一言ぽつりとレオンは呟いた。不思議そうにシャーリーンとジリアンはレオンを見る。アイチも然り。



「だからお前の風がわからなかった」
「かぜ…?」
「風の匂いが違ったんだ。だから近くにいることに気付かなかった。貴様の香じゃない」



さらりと流れるような青髪を撫でると群青色の瞳をみた。大きく見開かれた瞳は瞬きをぱちぱちと繰り返す。
そのせいなのか、アイチから漂う香に吐き気がしそうだ。思わず眉間にシワを寄せる。



「……レオンくんって何だか犬みたいだね」
「は?」
「だって僕の匂いがわかっちゃうなんて凄いよ!」
「わぁ、レオンさま犬ー」
「馬鹿、レオンさまが犬な訳ないでしょう!って、レオンさまどちらへ!?」



シャーリーンとジリアンをさておきとでも言うかのようにアイチの腕をとるとすたすたと歩いて行ってしまった。
ついて行こうとするジリアンの腕を引っ張ると首を振った。



「何するのよ」
「もぉ、ジリアンは子供だなぁ〜」
「私が子供ならあんたも子供でしょうが!」
「えぇー。なんでそうなっちゃうかなぁ。と言うよりもレオンさまの方が十分子供だよ」



だって、アイチちゃんのこと名前で呼べないんだもん!
屈託のない笑顔でシャーリーンは言うと、くしゅんとレオンはくしゃみをした。あまり良くない風が吹いたなと思いながらも、何処に行くわけでもなくただアイチを連れ回すレオンであった。






(以前、レオアイをもっと書いて下さいという意見を貰ったので練習がてらに書いてみたり………。最近文章を書いてないのでリハビリです。
シャーリーンちゃんはアイチのことをアイチちゃんと言っていたらいいなと言うイメージ!)




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