手はおひざ




櫂♀幼女アイチ


俺ははたから見れば大層、犯罪の香りがするかもしれない。まだ小学一年生である小さな女の子を一人暮らしの部屋にいれているのだから。
名前を先導アイチと言うのだが、ぷにぷにした小さな手や華奢な身体に大きくぱっちりと開かれた、近所ではお嬢様学校として有名な場所に通っており、それはもう可愛らしい。
だからと言って手を出そうなんぞ思ってはいない。そこまで俺は変態じゃないし、いや普通に変態じゃないのだが、ただ世間知らずのあの小さなお嬢様は好奇心旺盛で。



「かいお兄ちゃん、なに作ってるの?」
「ホットケーキだ、」
「!!」



ガタッと言う音がしたと思ったらぷるぷると膝を抱えてアイチは疼くまっていた。火を止めて急いでアイチに駆け寄れば大きな瞳に涙を溜めたアイチの姿があった。きっと、喜ぼうとして立ち上がった瞬間にテーブルに膝をぶつけたのだろう。皮が剥けてしまっている。



「大丈夫か、泣くな、」
「あ、あいち泣かない、もん…!強い子だもん…!」



そう言ってポケットからカードを取り出すと痛みに耐えているのがわかった。それはいつぞや俺があげたカードだ。仲間外れにされ、追い掛けた時に盛大に転び公園で一人泣いていたアイチに声をかけ、渡した。それからと言うものアイチは俺に懐いてしまった。



「偉い、偉い。じゃあちょっと待ってろ、今作るから」
「うんっ!」



ぱぁああ、と顔を輝かせて先程の顔はなくなっていた。
そういえば、なんでアイチが俺の家にいるかって言えば、アイチが俺に勉強を教えて欲しいと頼んだからだ。だがあまりにも急だったため、菓子など家にない。いつぞや三和が俺の家に来てホットケーキを作った時に忘れて行ったミックスがまだ残っているのを思い出し、今作っていたのだ。



「そういえば、なんでアイツはわざわざ俺の家で作ったんだ?まぁどうでもいいか。―――なんだ、簡単だなこれ」



きつね色になった表面に、金色の蜂蜜をかける。とろり、とろりと落ちていく。何をするわけでもなく落ち着いて座るアイチに近付くと、匂いに気付いたのか、ぱっとこちらを見て笑い手を膝の上に置いて律儀に座った。



「くつろげばいいだろう」
「で、も、お母さんが、ひとのお家ではおぎょうぎ良くしなさいね、っていってたから」
「はぁ…まぁ良くわからないが…」



そんなアイチが、まるで犬のようで。飼い主に「待て!」と言われてエサの前でよだれを垂らしながら律儀に座る犬にみえたのだ。
なんだこいつは、可愛すぎるじゃないか。
アイチが小さなぷにぷにした手を合わせて「いただきます」と言いフォークを持った時、口が動いた。



「待て、」
「ほえ?」



そう言った途端、小さなアイチはぴしっとまた両手を膝の上におき固まった。きっと、物凄く食べたいだろうに俺は何をやっているんだ。蜂蜜とバターの香りが部屋に充満し一層、食欲をそそる。
だが俺はそれ以上言わず、アイチの表情を見ていた。それは"可愛い"の一言しか言えないくらいで。
そろそろ俺は末期なのかもしれない。




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