縛られた薬指




レオ→アイ


身体が浮いているような感覚だった。水の中に、ひとりでに沈むようで。虚ろな目で見る世界には櫂くんの後ろ姿とそれに向かって、手を伸ばして名前を呼び続ける僕の姿だった。
それでも櫂くんは振り向いてはくれなくて………そしたらふいに誰かに名前を呼ばれた。そうして手を引かれた。あ、と思った瞬間にはもう櫂くんはいなくなっていた。



「っ、は…はぁ…」



胸が酷く痛む。はっとして目を開けて整わない息を吐きながら呼吸をする。手には汗がぐっしょりとかいていて、身体も気持ち悪い。と、此処は一体どこだろうと不思議に思い辺りを見回す。ガチャ、と音を立ててドアが開き誰かが入ってきた。



「き、みは……」
「目が覚めたか、ちょうど良かった」



そう彼は言うと僕に近付き、バイオレットの瞳で僕を見た。その瞳に僕は吸い込まれるように魅入り、彼が僕の目の前に近付くのに気付かなかった。
ギシ、とスプリングの音が耳に入りようやく気付く。



「顔色が悪いな。肌も冷たい」
「っ、」



ふわり、と彼は僕の頬に触れてきた。彼の手は温かくてなんだか気持ち良い。だが自分はどこにいて、何故彼が目の前にいるのか気になり、閉じた目を再び開けた。



「あ、の、僕は…一体…?それにレ、レオンくんはなんで此処に…?」
「覚えてないなら、知らなくていい」
「で、でも、僕…家に帰らなくちゃだし……」



そう俯き様に言うと、アイチの顎を掴み無理矢理目を合わせた。思わず布団を掴む手が震えてしまう。



「貴様は帰る必要などないだろうが。貴様は俺の伴侶に相応しい存在だ、末裔として扱われてきた我らを繋ぐ大事な役割が貴様にはある」
「なっ、何を言ってるの!?や、やだ、僕は帰るッ…!!皆のいた場所に…!!」
「皆のいた、場所か――」



ふっと嘲笑う。
サイドテーブルに置いていた水を持つとアイチに渡す。だがアイチはいらないと言うかのように首を横に振った。



「喉渇いてないから…僕、かえ――っむぅ!!?」



そんなアイチの態度が気に入らない、とばかりに無理矢理こっちを向かせるとアイチの口の中に水をいれ、押し込めるかのように口づけをした。
レオンを退かそうとしても全く手に力が入らず、頭には手が添えられてしまい離れようにも離れることが不可能になった。

混じりあう、互いの舌と水音だけが部屋に響く。



「っん、ふ、んんッ!!」
「――ッは、我が伴侶は威勢がいいな」



唇は離れたが、銀色の細い糸が二人の口から繋がり潤いのあるアイチの唇の輪郭をなぞるように触れた。とろん、とした表情で息を乱しながらレオンを見つめた。



「先導アイチ、お前に決定権などない。ただ素直に頷けばいいだけだ」
「っひ!?れ、れおんく、ん、やだ、怖い、怖い…!!」



ぽろぽろと涙が零れ落ちる。触れられる手が怖くカタカタとアイチは震えた。だが、それとは裏腹にアイチの身体は熱を帯、じんと熱くなっていく。



「ここで途絶えさせてはいけないのだ、わかるだろう?アイチ。それに……貴様も満更ではないだろうに」
「ふぁ、れおんく、っ」



ちゅ、と熱を帯びた身体に口づけを落とせばアイチはびくりと身体を動かす。紅潮した頬に潤んだ瞳、そして反応する身体にレオンは笑った。



「大丈夫だ、俺ならちゃんとアイツを忘れさせてやる。追い掛ける必要などもうない」
「あい、つ……?」



きっと水に含ませた薬が馴染んできたのだろう。頭が回っていないようだ。ポケットに入れていた指輪を取り出すとアイチの薬指に嵌めた。きらりと光るレオンの瞳と同じ色の宝石に満足そうにレオンは笑う。



「アイチ、お前ならきっと俺を満足させてくれるだろう?お前なら俺の子を生んでくれるはずだ、」
「ぼく、男だよ……?」
「俺が選んだお前なら信じている」



繋がれた左手を更にぎゅっと握りしめた。顔を首に埋めればくぐもった声が聞こえる。熱を帯びた互いの身体は触れると一層熱い。



「我が末裔の伴侶に祝福を――。そして、我ら一族に栄光を」



ごぽり、と水の音が聞こえる。目を開けても真っ暗で……怖いよ、と叫べば誰かが手をひいて名前を呼んでくれた。櫂くん?と呼べば、光に先導してくれたのはレオンくんで――――。
ああ……そういえば、カイくんって誰だっけ……?
今となっては薬指につけられた指輪がひどく心地好くて笑えばレオンくんも笑い返してくれた。




(えろいのが書けない結果のよくわからない初書きレオアイ)




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