心の隙間を埋めたくて




レンアイ


ごくり、と白い喉を伝わって飲んだミネラルウォーターが流れ落ちる。その様子をちょうど起きたアイチは目を擦りながらそれを眺めた。



「あっ。アイチくん起きましたか。お早うございます」
「んむぅ…おはよ…ございます」



もぞもぞとアイチは起きる所かまた潜ってしまった。それに続いてレンもベッドに潜り込んだ。



「わっ、何でレンさんまで入ってくるんですか!」
「酷いですね、君は。これ、僕のベッドですよ」
「だってレンさん寒いから嫌です」
「えー。アイチくんが熱すぎるんですよ。あ、違うか。アイチくんの中が熱すぎ「ちょ、ちょっと黙って下さい!」



目をグルグル回しながら、アイチはレンを突き放そうとしたがむしろ逆に抱き着いてきたのでどうにも出来なくなってしまった。レンは嬉しそうにほお擦りをしながらアイチを抱きしめる。



「……朝…はだめですからね」
「えっ。どうしてですか?」
「どうしても何も…。あなたって人は…だ、だから!」



アイチが言う言葉に耳を傾けず、もぞもぞとシャツの中に手を入れてまさぐるレンの手を止める。あまりにも密着し、レンの体温がわかってしまいアイチは顔を真っ赤にした。



「アイチくんがあまりにも可愛いので」
「馬鹿ですかレンさんは!あ、やっ、何回言えば…!」



かぷり、とアイチの反応を楽しむかのように耳をかじり中を舐めるレン。おかげで力が入らない。おまけに全く人の話を聞かない。と、レンがアイチに覆いかぶさった。そこでアイチはレンの顎を両手で抑えた。



「駄目で、す。それは駄目です。キスはしない約束です」
「……ああ…そう、でしたね。すみません」



そう一言、謝るとレンは目を伏せて一瞬、冷たい目をしてにこりと微笑んだ。アイチはそれに応えることが出来ず、シーツを握りしめた。
レンとアイチの関係が始まって早二ヶ月が経った。偽りの関係をし、上っ面の愛の言葉を囁いては夜を過ごす。行為をしている時アイチはレンを見なかった。レンとして見なかった。

これはエゴなのだ。二人の。そもそも始めたのはアイチだった。苦しくて辛くて耐え切れない現実から逃げた。自分がどれ程求めた相手は遠ざかりアイチの方を見ようとはしない。そんなぽっかりと空いた心の隙間を埋めたのはレンだった。
毎夜毎夜、レンは愛を囁き、それにアイチは偽りの応えを出した。レンは気付いていた。アイチは自分を見てはいない、と。
だが、それでも構わなかった。アイチが自分を必要とし、求めて、笑ってくれるなら。



「アイチくん、愛してますよ」
「…はい。僕もです」



にこりと笑って答える。その瞳は一体誰を見ているのか。ただぽっかりと空いた心を埋めれたのか、どれだけ願ってもレンには手に入らない。アイチが好きだと言って、アイチが求めて、アイチが喜んで、それでも目の前にある本当の言葉は貰えない。



「僕は…欲張りなのでしょうか…」



君の、愛が欲しい。
証明して欲しい。
唇に愛を証明したい。



「ごめんね…レンさん」



「この唇は、駄目なんです」と言うとアイチはレンの額にキスをした。それが偽りか真実だったのか、レンには知りたくも無かった。




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