愛した分だけ愛せない
レンアイ
「何も見えないんです」
そう言ったのはレンさんだった。此処は部屋だけど電気はちゃんとついてるしレンさんは盲目じゃない。ただ…そうだ、レンさんには何も見えないのだ。
「見えないんです。何も…何も見えないんです。アイチくん、アイチくん」
何度もレンさんはそう言う。どうしてレンさんには分からないんだろう。どうしてレンさんは視えない理由を知らないのだろう。レンさんはなんて…なんて……可哀相な人なんだろうか。
「僕にはわかりますよ。どうしてレンさんがみえないのか。僕にはよく見えます」
「見えないんです、見えないんです」
例えばそれはお腹を空かせた赤ちゃんが泣くように、例えばそれは買ってほしい玩具を買ってもらえない子供のように、何度も繰り返すのだ。
レンさんは本当に可哀相な人。だって何にもわからない人なんだもの。
レンさんが僕を触る手も話し掛ける声だって、僕を繋ぐこの鎖だって、なんてなんて可哀相なレンさんなんだろう…。
「仕方ないんですよレンさん。レンさんには絶対に見えません」
「アイチくん、」
「あなたがいつまでも僕を縛り独占し、――――レンさんが泣いてる限り見えないんです」
ぽたりぽたり、と静かにそれは落ちる。滴となり星霜をいくつも超えるかのように。脆くて儚いレンさん。弱くて僕がいなきゃ駄目なレンさん。本当に本当にかわいそうなレンさん。
「なら――君も見えないはずですアイチくん」
ぐいっと首から繋がれた鎖を引っ張るとレンさんの涙は僕の頬に落ち、伝わり床にぽたりと落ちた。綺麗な瞳には不釣り合いな僕が映っている。
そして嘲笑うと僕にキスをして髪を掴んだ。
「だって君も泣いているじゃないですか」
僕が泣いている?僕は泣くはずがない。泣く理由など無いのだから。レンさんが僕を愛してくれない限り僕は泣くはずがないのだから。