贖罪のカプリッチオ
櫂アイ
※アイチが鬱状態(ヤンデレ?)注意です!
「櫂くんって、本っ当お人よしだよね。そうゆう所が大嫌い」
バリッ!!とアイチは鋏を縦に振り下ろし櫂の写真を引き裂いた。それは以前、櫂とアイチが一緒に遊びに行きツーショットをした時の写真だ。
「知ってるよ。僕知ってる。君がどれ程愚かで優しいか。いつも冷たそうに見えて本当は心が温かいのも。だからこそ…嫌い。嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い、大嫌い」
そう言ってアイチは何度も何度も何度も何度も鋏を振り下ろしてはクッションを引き裂いた。中からは溢れんばかりの綿が出てくる。
「だって櫂くんこの前、僕に好き、愛してるって言ったのにどうして他の子と話してたの?僕のこと愛してるのにどうして?何で僕だけを見ないの?他の子を見たその眼でまた僕を見たよね?汚い眼で。ああ、じゃあ綺麗になるようにこの鋏で眼、とってあげるよ。そうすれば綺麗だよね」
ねぇ、櫂くん、とアイチは微笑んだ。それは虚無で。だがアイチは何を切っても裂いても叫んでも満足出来ずしだいに苛立ってきた。
何かを切りたくてしょうがない、と、アイチは自分の髪の毛を掴み鋏を持ち直した。だがその手はあっけなく止められてしまう。
「やめろアイチ」
「……櫂くん」
櫂はアイチの手を止め、持っていた買い物袋を床に落とした。溜め息をつくとアイチの前に座る。
「お前、またこんなに散らかして……。あぁ、クッションまでボロボロにしやがって」
「わた、いっぱい出てきちゃった。どうしようね櫂くん、困ってる?櫂くん困ってる?ねぇねぇ?困ってるの?」
「…ああ。凄くな。また新しいのを買わなきゃいけなくなった」
そっかー、とアイチはさっきとは打って変わり子供の様な表情をした。フローリングに足を伸ばしてカチャカチャと鋏を動かす。その間に櫂は散らばったものを拾った。
「……写真…」
「んー?あぁ、それね。鋏って凄いよね何でも切れちゃうんだもん。こーやって動かすだけですぱーん……って」
「アイチ…」
落ちていた写真は綺麗に櫂とアイチの間が切られていて。アイチは首だけ櫂の方に向けるとその櫂の様子に嬉しそうに、にやりと笑った。
そしてしゃがみ込む櫂の背後におんぶされるかのように覆いかぶさり後ろから櫂の前に鋏を持ってカチャカチャと動かした。
「ふふ、櫂くんどうしたの?悲しいのかな?怒ってるのかな?もしかしたら嬉しいのかな?僕は嬉しいよ櫂くんが僕の大好きなカオ、してるんだもん!」
背後でアイチは狂ったように笑った。尖った先を櫂に向け、その表情は悦びに満ちていた。
「好きだよ櫂くん、好き好き、だーい好き。愛してるよ。でもそれと同じくらいに櫂くんが大嫌い!嫌いだよ嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い!!僕の全部を櫂くんは奪った!僕がどれだけ叫んでも、泣いても、助けを求めても櫂くんは僕を見捨てた!!やっぱり嫌いだ嫌いだ大嫌いだ!!!」
何度も何度もアイチは繰り返しに言う。発作だ。アイチ特有の病気であり鬱である。
その通りだ。俺はアイチを見捨てたんだ。助けてやれなかった。アイチはある時死にかけた。それはたまたま起こった悲劇である。いわゆる人質としてアイチは捕まった。
そしてアイチが何度も叫び、助けを求め、喚いても俺は何をする訳でもなくただ気を失っていた。気が付けば血の海で、その血の海の真ん中に立っていたのは深紅に染まったアイチだった。
手には人質の時に脅しに使われた出刃包丁を持ち、切れ味がわるそうな位で。そしてアイチは何をするのか、突然死んでいる奴の腹を裂き、緜を取り出し奇妙に笑い始めた。
アイチがそいつらを殺したのかはわからない。アイチの腹部、足、頭からは絶え間なく血が出ていた。
そして警察は自殺と見做したのだ。
理由は簡単だ
アイチは鬱になった。
「今日の夜ご飯はなぁに?」
「今日はお前の好きなカレーだ」
「やったぁ!櫂くん大好き!」
「…ああ俺もだ」
それは本当の言葉で、
偽りのなくただ純粋に、
互いを求め合っているのか、
そうして今日も俺達は贖罪をする。一体何の目的で何の理由かはわからない。ただ何度も何度も本当かわからない日常を繰り返すのだ。
鬱な話を書きたくて…