二人で、一緒に
櫂アイ
幼い頃から憧れて、追うように手を伸ばした。それでもまだまだ届かなくて諦めそうになった事もよくあった。そして僕が立ち尽くしている間に君はまた僕より先に行ってしまうんだ
「待って、櫂くん、」
走る。走る。走る。しかし手を伸ばしても追い付けないんだ。何度も何度も名前を呼んだ。櫂くん、櫂くん、僕を置いてかないで。僕頑張るからだから………
だから…… 何だろう?そうだ僕は一体何を頑張ればいいのだろうか。いつも必死になって追い掛けたその背中もどんどん遠くなってしまうんだ。……ああ、やっぱり僕じゃあ駄目なんだ。僕はやっぱり櫂くんには相応しくないんだ
そして伸ばしていた手をゆっくりと降ろした
「アイチ」
と、名前を呼ばれたかと思うと櫂くんは僕の手を握った。おかしいな、さっきまで櫂くんはずっと遠くに……
「何をぼぅっとしているんだ、さっきから。お前はやっぱり歩くのが遅い」
それは違うよ、櫂くんが速いんだ。櫂くんは僕なんかよりもずっと凄いから速くて……
「またくだらない事でも考えていたのか…。……こうして俺が引いてやるから一緒に歩けばいいだろう」
ぐいっと握られた手を引かれた。暖かい……
握られた手に嬉しくなって笑った。一緒に…歩いていける。櫂くんは優しいんだな本当に
「置いて…行かないでね…?」
「当たり前だ」
僕が追い掛けるんじゃなくて、櫂くんが待ってくれるんじゃなくて、二人で前に進めばいいんだ。だから繋がれた手を離さないでね