先導アイチの秘密



櫂アイ


いきなりだが中学三年生の先導アイチは普通の人とは違う。いやアイチはごく普通の中学三年生だ。ちなみに俺…櫂トシキはアイチの幼なじみでもある高校一年生だ。ぱっと見だとアイチは女子にしか見えない童顔だ。目は大きいし身体は華奢だし

そんなアイチを纏うのは癒しなのだ。が、



「アイチ、待ったか?悪い」
「ううん全然!今来た所だから!」



学校は違えどこうして一緒に毎日帰っている。昔からなのか癖になってしまった。それに過保護なアイチの妹が一緒に帰って下さい、と頭まで下げて来たのだ断れる理由などない。むしろ断れるなど以っての外だ



「―――それでね、森川くんてばまたコーリンさんの話し始めてね………あっ」
「何だ、どうした」



いつもの様にアイチは楽しそうにしながら学校での事を話す。それを聞くのは楽しいし何よりアイチが嬉しそうで良かった。何かしら昔はよくアイチは虐められていたからな。アイチはぴたりと足を止めて一点を見はじめた



「………あの子…」
「同じクラスか」
「…うん。……今日僕にケチつけてきた子。宿題やってないとか何だか言って、後で集めろだとか掃除代われだとか…僕をまだ雑兵扱いする奴」



始まった。目が物凄く怖い。いつものアイチでは無い……もう一人のアイチだ。そうつまりアイチは二重人格なのだ。それもタチの悪い。普通の二重人格とは少し違い“先導アイチ”には二人の先導アイチが存在する。鏡合わせの様に表と裏の様に



「だいたい何なの。はっきり言えば櫂くん来るの遅いしお陰で足痛くなったし。もう一人の僕はこんな風に言わないけど僕は疲れたの」



つまり、同じ先導アイチだが違うのだ。まるで双子の様な存在。アイチが二人いると考えれば早いだろうか。こちらのアイチはかなり自己主張をハッキリする



「アイ「はい、櫂くん。持って?」



と、ずいっとアイチから鞄を渡された。当たり前でしょうとばかりに腰に手を当てて櫂を見ていた



「あーそれと。櫂くんもっと積極的にしないとあっちの僕気付かないよ。あっちの僕は変に鈍感だから櫂くんのこと『頼りになる優しくて格好良い幼なじみ』程度にしか思ってないから」



ズバリと櫂の心に響くことを直球に言われた。こちらのアイチを裏アイチと呼ぶとすれば裏アイチは櫂が“先導アイチ”の事を好きなのを知っている。だが表のアイチは全く気付いていないというおかしな状態なのだ



「そ・れ・に、もしあっちの僕が櫂くんのこと好きになっても僕が櫂くんのこと好きにはなってないから大変だねー。まぁ櫂くんはあっちの僕が好き何だろうけど」



そう言うと櫂が持っていた鞄を奪いくるりと身を回らせた。双子ではないということだから顔そのものはアイチだ



「今日はここら辺でいいや、櫂くんのお家もそこだし」
「だから俺の家は公園じゃないと何度言えば…」
「せいぜい無駄な足掻きで僕を落としてみるんだよー。また明日ね」



にこにこと手を振りながらアイチは帰って行った。裏アイチはいつもそうやって嫌味の様なことを言いながら悲しそうに目を伏せるのだ。櫂は表も裏も関係なく“先導アイチ”が好きだ。それを変に勘違いしている裏アイチが面白く何も言わなかった。何しろ“先導アイチ”の秘密を知っているのは自分だけなのだ


自分が一番酷いのかもしれない、と密かに思った櫂だった




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