ほんの少しの相合い傘



櫂アイ



―――ザァアアアア…


突然雨が降る。天気予報では30%と言っていたはずだ。いつも傘など必要では無い持ち物を持ち歩かない櫂は思わずため息をついた。走るにしても酷い雨だ。仕方ない、と雨が弱くなるまで雨宿りをしようと考えた



「あれ?櫂くん…?」



雨音の中確かに聞こえたアイチの声。前を見るとピンクの傘を差したアイチが雨の中歩いていた



「アイチか…」
「わ、大丈夫?いきなり降って来たもんね…。そうだ、一緒に入らな……」



何を考えたのかアイチは顔をゆっくりと赤くさせながら固まった。まだ櫂は何も言っていないが。しかし途中まで聞けばだいたいは何が言いたかったのかわかってしまった



「ふ、深い意味は無いんだけど良かったら…その櫂くんが良かったら一緒には、入らない…?」



顔を赤くして、上目遣いで、おどおどしながらゆっくりと傘を手前に差し出して聞いてきた。これを断れる奴はいない



「いいのか?」
「う、うん。雨止みそうにないし……」



だから一緒に、とアイチは何処か嬉しそうに笑った。せっかくの好意を無駄に出来ない。アイチから傘を取り俺が持つと途端に「僕が持つから…!」と言いはじめたが身長差がありすぎてやっぱりお願いします、と縮こまり言った



「あっ…、もぅ着いちゃった…」



残念そうな顔をしながら足を止めた。これは期待をしてもいいのだろうか。だがこの間、アイチの妹先導エミに「アイチに変なことしたら……頭の良い櫂さんなら解りますよね?」とチェーンソーのコードを巻き取りながらにこりと言われた。その時何故チェーンソーのコードを巻いていたのかは解らないが………



「あ、櫂くん家まで濡れちゃうから傘使って!」
「いや大丈「夫じゃないよ!僕家まで傘持って貰っちゃったし送って貰っちゃったし…。だから使って?」



うるうるとしたまるで捨てられた子犬状態でアイチは言う。だからこれを断れる奴はいない。断言しよう



「…わかった、借りる」
「良かったー!」



こちらが借りる身なはずなのにとても嬉しそうにするアイチを見て思わず笑った



「お前こそ早く家に入れ、濡れる」
「う、うん。じゃあ櫂くんまた明日ね」



手を振りながら家に入って行くアイチを見送り櫂は歩き始めた。そしてアイチから借りた傘に思わず絶句した



「………乙女か…」



思わずツッコミを入れてしまった。ピンクの傘の内側は花柄になっていた。きって妹のだろうとは思ったが何の違和感もなく差していたアイチを思い出した。そしてそんな傘を持つ櫂に周囲の目は注目するだろう

櫂はアイチと相合い傘をした事にさえ気付かずにピンクの花柄の傘を持ち早く帰るにはどうしたらいいか悩んでいた




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