拝啓、あなたさま
櫂♀アイ
※大正時代パロ、♀アイチ
拝啓
風薫る五月となりました。月日が経つのがとても早く感じてしまいます
櫂さんと会った時のことを今でも鮮明に忘れることが出来ません。最初に会ったのは確か沈丁花がほのかに香る三月の様な気が致します。こうして櫂さんと文通の出来ること、心からお喜び申し上げます
昨日は妹のエミにまた怒られてしまいました。何分、丁寧に物事を書くことが出来ず今もこのような文章になってしまい申し訳ありません。最近はよくぼぅっとしてしまう事が多くてエミや友人によく注意をされます。「春ぼけ」というらしいのですが櫂さんはご存知でしたか?
先月頂いた、かすてらと言うものがとても美味しくて感動致しました。妹や母も喜んでおり心から感謝を述べます。いつも沢山のものを頂いてしまい申し訳ありません、櫂さんがまたこの町に戻って来た時には今度は私から櫂さんに渡したいと考えていました
そして長くなりましたが最後に櫂さん、いつも文通をして下さりありがとうございます。お蔭様で順調に病の方も治って来ています、私の我が儘になってしまいますが櫂さんに早く逢いたいと願ってしまいます
また戻って来れる日があればよろしければ教えては貰えないでしょうか
梅雨のはしりのように気まぐれな空の下、十分お体にお気を付けください
敬具
1934年5月17日
先導アイチ
櫂トシキ様
―――かたん
アイチは持っていた万年筆をゆっくりと机の上に置いた。そして一度読み直す
「アイチ、書き終わったの?」
「エミ!うんちょうど今…」
襖を開け、アイチの部屋にエミが入って来た。持っていた水と薬の乗ったおぼんを床に置きアイチに近寄る
「はい、まずは薬。ちゃんと飲んでね」
「うんありがとう」
昔からアイチは身体が弱かった。今もアイチは思わず咳をした。そしてそれを凄く心配しながらエミはアイチの背中をゆっくりと摩った
「大丈夫アイチ…?」
「うん…、ありがとうもう大丈夫だよ」
だがまたアイチは咳込む。そして書いた手紙をエミに渡した
「いつもごめんね、お願いしてもいい?」
「何言ってるの!いつも言ってるでしょ、そうゆう気遣いとかいらないって!」
ぱっとアイチから手紙を受け取るとまるで壊れ物を扱うように大切にポケットに入れた。頭に付けた大きな桃色のリボンが揺れた。それと同時にエミは布団から起き上がったアイチの頭についた水色のリボンを直す
「…早く、良くなるといいね」
「……そうだね」
エミは立ち上がり「手紙置きに行ってくるね」と一言だけ言って部屋を後にした
拝啓
櫂トシキさまあなたは今何処にいますか?この青空を見ていますか?元気ですか?早く……早く逢いたいです、この命が尽きるまでには―――
敬具