例えばいつもと違う正装で。白い純粋無垢な白のポロシャツを身に纏って、例えば少し短い制服のプリーツスカートをはためかせて、例えばそう長くもない脚を締め付けるなんの装飾もないただの黒いハイソックスを穿いて、私はただ人気のない街中を駆け回りたい衝動に駆られる。――なぜ、いや、忘れたいことのひとつやふたつはざらであって、泣きそうな悲しさを身体から切り離してしまいたいと思った。髪が揺れる。やや涼しげな風は、小刻みに震える私の頬を掠めて流れていった。流れた汗は気持ち悪くなく、その赤茶色の髪は上下に揺れた。息も切れて喉が渇く。ああ、うるおいよ。

 うるおいに満ちたそれ。水も滴るなんとやらと言ったか。私が求めたそのペットボトルの表面は結露――いや気温差によって私と同じく汗を掻いている。中身は炭酸飲料だ。こんな時に飲むものではない、と後悔しながらも、しかし口に含んで喉を否応なく通る。渇いた喉にくる刺激はなんともびりびりした。
 喉が死んで、肺もいかれて、呼吸が乱れた。不規則な呼吸は器官を痛めてなお止まず。脚が折れるんじゃないかと、ふと思う。走った道を見返して、震える脚を支えてしゃがむ。身体の中の水分が全て沸騰したように暑い、熱い。

 なにかを目掛けて脚を走らせて、私は必死になにをしているんだろうと我に返る。追いかける目的など毛頭なく、それは無意味に風と共にさようならと、去る。足はすくみ、身体の中の水分は剥ぎ取られ、私は立ち竦むことしか出来ない。――ああ、うるおいよ。
 私に必要なのは、はて。



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