※ヤンデレいざや


それでもやっぱり



吸っても、

引っかいても、

噛んでも、

刺しても、

痕が残らない。
俺が愛したって痕が。


「気、済んだかよ」

気づけば俺の頬を伝った雫がシズちゃんの腹を濡らしていた。

ああ、俺またやっちゃった。


「な、んで…なんで……」

こんなにも愛してるのに。

俺が愛してるっていうのに。

全人類を愛していた俺がそれを投げ出してシズちゃんを愛してるのに。


「なんで、付かないの…」

「ごめん」


「なんでなんで!俺の愛をさ!……受け止めてよ、ねぇ」

なんでこんなことでムキになっているなんて自分ですらわからない。上擦った声を荒げて髪を振り乱した。

ただ、シズちゃんにキスマークを付けたいだけだったはずなのに。
全く何も残らない肌に段々と苛立ちが募ってナイフまで取り出してしまった。

涙でまばらに濡れた胸板へ拳を叩きつけてもビクともせず余計に虚しさが増すだけだ。
ギリッと唇を噛み締めれば鉄の味が広がる。

俺の体ならば、こんなに簡単に傷が付くっていうのに。


「俺は、お前のことを愛してるよ」

「違う…っ!そんなんが欲しいんじゃないんだよ!」


シズちゃんにはわからない。
こんな苦しいの、こんなに辛いの、わかりっこない。


吸えば痕が付く。
噛めば歯形が付く。
引っ掻けば傷が残る。
刺せば血が流れる。

それが普通。でもこの男は普通ではなくて。

「俺はシズちゃんのものなのに、シズちゃんは一生俺のものにはならない」

「んなことねぇ。俺はお前のもんだ」

そう言われても空いた穴は埋まらない。
どうしても埋まることがない。
言っていることが嘘だとは思わない。だって彼はそんな器用な人間ではないから。

「…もう一回したい」

シズちゃんごめんね、と小さく呟くと耳朶へ唇を寄せる。


握ったままのナイフを放り投げて、ベッドの波へ沈んだ。





100912 更新
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