あつ、い
あついあついあついあつい!
うだるような暑さ。熱さ。
動くのもだるいくらい。でも動かないと触れている布が温まってそれはそれで暑い。
ベッドの冷たい部分を探しながら定期的に寝返りを打っていたらいつのまにか全部温くなってしまった。
金髪の頭は俺がゴロゴロと転がるベッドに寄りかかりながら煙を漂わせる。
ばか。煙草なんてもの点けたらよけい暑いだろ。
「ねーシズちゃーん」
「うっせぇ喋ると暑い」
「あーつーいー…」
「心頭なんたらで火が冷てぇって言うだろ」
「心頭滅却すれば火も涼し、ね」
ここまでくるとわざとな気がしてならないけど彼は酷く頭が弱いのだ。
そんなところも愛おしいのだけど。
「でもそんなこといってらんないくらい暑いでしょ。ばかじゃないの日本!」
思いっきり叫べば余計熱くなってうなだれた。なんでこの部屋はクーラーがないんだ。
俺の部屋へ来れば涼しいし、なにせベッドも広いのに。入った瞬間に涼しさを味わうために俺がいない間もクーラーはつけっぱなしだ。
でもシズちゃんは俺の部屋へめったに来てくれない。だから俺がこうやって狭い壁も薄い部屋に来るしかないのだ。
今日は絶対セックスするぞ!と意気込んでいたのに、こう暑くちゃそんな気も失せた。
少しだけ開けた窓から温い風が蝉の煩い鳴き声と共に入る。
窓を全開にしてしまえば密接した道からいろいろと見えてしまう。しかし締め切ってしまうと煙草の煙で息ができなくなる。
生温い風も火照りすぎた体には心地よかった。
「なにしてんのシズちゃん」
「…アイス」
「アイス!アイスあるんなら早く出してよね!」
「うっせぇ。今思い出したんだよ」
だるかった体をガバッと起こして両手を伸ばした。
ピンク色のいかにも安っぽいイチゴとかかれたカップのアイスがとんでくる。
「もうちょっと優しく投げてよね。あー俺ハーゲンダッツのがよかったなぁ…」
いちいちうるせぇ、と小さく呟いてシズちゃんはバニラのカップを持ってくる。
この冷たさをすぐに失うのはもったいないと、額に当てる。ひんやりとした冷たさが体中をめぐった。
「そんなことしてると溶けるぞ」
シズちゃんはとっくにそれを食べ始めていた。
俺がいつもまごまごして溶けたアイスを何押し付けているのをあんまりよく思っていないらしい。
別に俺は捨てればいい、と言っても彼が勝手に勿体ない、と顔をしかめて奪い取るのだけど。
わかってるよ、と言うとカップの中身はほんの少しだけ柔らかくなっていた。
溶けかけたアイスの外側を慌てて口に運ぶ。
コンビニでも百円そこらのアイスなんて自分では絶対に買わないけどこの暑さの中ではこのアイスは絶品に等しかった。
「あー!もうシズちゃん全部食べちゃったの?俺に黙って!」
「なんでだよ。別に俺のもんなんだからいいだろうが」
「一口欲しかったー!」
「手前の一口は一口じゃねぇんだよ」
…バニラも食べたかったのになぁ。その為に違う味のアイスを買ったんじゃないの?
とけかけたアイスを一気にかきこむ。
やっぱりぬるいアイスなんかアイスじゃない。
なぜ溶けるとこんなにも甘すぎるのだろう。さっきまですっきりとしていた甘さは喉に張り付いて逆にのどの渇きを訴える。
「こっちむけ」
「ん?…っ、ん!」
ぶり返してきた暑さにふらふらとベッドへ戻ろうとした瞬間。
ほんのり冷たい唇が触れた。一瞬ガチッと歯の当たる音がしたけどそのくらいご愛嬌。
バニラ味の冷たい舌が口内をめちゃくちゃに動いてだんだんと温まる。
それでも離したくなくて張り付く汗なんて気にせずに引き寄せた。
「シズちゃん、バニラ味…」
成人した男二人、サウナのような暑さの中に汗だくの体。
それでもそんなの関係なく、貪るように何度も唇を重ねた。
「風呂、入ろ」
「…狭いだろ二人は」
「風呂ですればそのまたシャワー浴びなくて済むと思わない?」
汗でしっとりと濡れた首へ口づける。
それでドコがどう反応するかなんてもうわかってる。
たまには熱に浮かされるのもいいと思った。
…たまには。
100719 更新