そう、これが日常。



「ほんと臨也は静雄くんが好きだよね」

「シズちゃんなんか嫌いだっつの!」


ふん、と顔を背けたつもりが、その視線の先には校庭でサッカーに興じているシズちゃんが目に入ってしまった。


体操着のジャージは彼の体には少し短く、この高校生活の間に慎重が伸びたことを物語っていた。
真面目に授業を受けている彼を後目に俺達は屋上でサボタージュ。
教師には弱みを握れば単位をどうにかできることを分かってしまったのだから、真面目になんて受ける必要なんてないんだ。

そんなすべを知らないバカでクソ真面目なシズちゃんはやっぱり嫌いだ。
不意に目が合った気がして舌を出してあっかんべーしてやった。
でもすぐに反らされてしまった。もしかしたら気のせいだったかもしれない。

「現にそうやって目で追っているくせに」
「……シズちゃんは大嫌いだ。だから気になるだけだよ」

「ふーん、そう」

「うん、そうなの」

いつまでも目で追っている自分が嫌になって無理やり視線を外す。

人間が大好きな俺が、特別な感情を抱くとしたら『嫌い』以外はありえないんだ。

そうだ。俺はシズちゃんが大嫌いなんだから。

敵を知りたいだけ、それだけなんだよ。

固いコンクリートの上に寝ころんで大きく伸びる。
日差しがいい感じに気持ち良い。
授業終了のチャイムは鳴ったが、次は昼休みだ。このままゆっくりしよう。

いっそ昼寝もいいなぁ。

「あ、静雄が女の子と話してる」

「え!」

バッと体を起こして柵に手をついて校庭を見る。
確かに女子と話している。

まどろんでいい気持ちになっていたのに。
なんだよバカ。


クスクスと新羅が笑っている。不愉快だ。
新羅もシズちゃんも不愉快だ。


「自分の気持ちに素直になればいいのにな」

「素直だよ、俺はいつだって」

見たところとても可愛らしい女の子ってわけではない。
地味目の、でも胸がでかい女。
そんなのが好きなんてシズちゃんってほんとに趣味悪い。
バカじゃないの。ほんとに。

「しーずーちゃーん!!!」

ぴくっと金髪が揺れる。

「イチャイチャしないでくれるー?めーざーわーりー!」

敵意むき出しの目が俺を捉える。
ああ、そうだよシズちゃん。君はそうでなきゃ。

「いーざーやぁあああああ!!てめえええ!」

怒声とともに投げられたのはサッカーゴール。
シズちゃんってばここ屋上だよ?よくもまぁここまで飛ばせるもんだよ。


「あは、新羅ごめん。シズちゃんに見つかっちゃった」

「ふぅ、ほんとに君たちって素直じゃないよね」

「俺逃げるから、じゃあね」


ここでは追い詰められてしまう。
どうにか逃げなければ。

ひらひらと手を振ると階段を駆け下りた。











「ノミ蟲ぃぃいいい!!…ってあれ…新羅か」

「残念ながらもうここにはいないよ」

「おお、そうか…」

殺気づいているとはいえ、静雄のそれは嫌悪の感情だけではないということもわかっていた。
というか、二人が好きあっているのを気づいてないなんて本人たちだけじゃないのか。

「ノミ蟲の野郎とよ、何してたんだ?」

「別に、ただサボってただけだよ」

「そう、か」

なんとなく思うことがあったのだろう、彼の表情は曇っていった。

「そんな顔しなくても僕にはセルティという愛する人がいるしね!」

「な、そんなことなんも言ってねぇだろ!」

真っ赤になって反論する彼もまた、やはり自分の気持ちにすら気づいてないのだろう。
ああ、見てるこっちが歯がゆいっての。


「例えセルティがいなかったとしても臨也なんて絶対に恋愛対象外だよ」

「だから!ノミ蟲なんか害虫と同等なんだよ!」

掴んだ柵はもともと錆び付いていたこともあったが、それにしても意図も簡単にひしゃげてしまった。
これ以上の追求は僕の命に関わりそうだ。やめておこう。

「しーずーちゃーん!こっちだよー!」

今度は校庭から臨也の声が響く。
別の階段を使ったのだろうか。すれ違っていたようだ。

「クソノミ蟲!今から行くから一歩も動くんじゃねーぞ!」

あははは、やだよー!と臨也が笑う。
静雄はまた『殺す』と連呼しながら階段の方へ消えた。






「ホントに、素直になればいいのになぁ」



リクエストありがとうございました!勝手に来神にしちゃいましたが、もしこんなんじゃ嫌!等ありましたらお受けします><

100520 更新
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