あれから10日がたった。思いのほか月日はあっという間にすぎていく。

はっきりいって、それからシズちゃんの扱いは簡単だった。

ちょっとした危険があれば俺を助けに標識だったりガードレールだったりを振り回した。
それに関してはあまりにも派手すぎたから叱ったらまるで犬のようにうなだれた。
ちょっとした大型犬を飼っていると思えばいい。


今日も粟楠会の取引があった。
波江には出払ってもらい、シズちゃんには何かあったときのためのボディガードということで隣の部屋で待機してもらった。
ちょっとのことでソファーや椅子を振り回されるのはごめんだけど、命を落とすよりはずっといい。

大事な取引、というかこういう関係の取引には本当に便利だ。

「シズちゃん、もういいよこっちきても」

隣に向かって声をかける。

「何もなかったか、大丈夫か」

ドアを大げさに開いて椅子に座る俺にタックルをするような勢いで抱きつく。
ぶつかる衝撃も、抱きしめる腕の力もやっぱりいたい。

「シズちゃん、いたいってば」

「心配なんだよお前…」

傷んだ髪が鼻孔をくすぐる。
仕事休んでまでボディガードするなんて、本当にバカだなあシズちゃんは。すっかり人間じゃないか。

「大丈夫だって。何かあったらシズちゃんが守ってくれるんでしょ」

あやすようによしよし、と指を髪にすべらせた。息が首筋にあたってくすぐったい。

「もう今日は仕事ないから帰っていいよ」

今日の役目は果たした。
いつも通りシズちゃんにはハウス!の命令を出す。

そろそろ夜も更けたし、シズちゃんにわざわざハグもしてあげたんだからもうこれでもう十分な褒美は与えた筈だ。

「や、今日は泊まってく」

「明日仕事だって言ってたじゃないか」

「明日は休みになった。…つうか」

してもらった。と続けると急に目の前にドアップになったシズちゃんの顔。

唇に生暖かいカサカサした感覚。
突然すぎて思考が追いつかないけれど、確かに唇同士がぶつかってる。
間違いなくキス、してる。現在進行形で。


うわあ、ちょっと待ってよこれはないって…!
ぶわ、と肌が粟立ったのが自分でもわかった。

「ちょ、まって…!」

両手に精一杯の力をくわえて押しても適うはずがなかった。
それでも抗う。だってそれはさすがにまずい。

「んー!約束が、ちが…う!」

舌が入ってこないものの、唇は依然として塞がれたままだ。
必死で足掻いてはいるが、それでもシズちゃん相手では蠅がうるさいレベルなのだろうか。
やだやだ、と必死にジタバタと暴れた。

そもそも付き合う条件として出したのは『キスをしない』ということのはずだった。
もちろんキス以上のことを彼ができるはずもないと踏んでのことだったのだが。
そういうのは恥ずかしい、とモジモジしてみせたらシズちゃんはそれでも構わないと言っていたはず。

そのはずなのだ。

なのに、なんでこんな風に。







100515 更新
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