※辛くて幸せな今の静雄視点
臆病者は夢を見る
『シズちゃん』
『やだ、すきだよ』
『離れないで』
臨也の家に行くと決まって同じ夢を見る。
いつも口を開けばうぜぇことしか言わない糞生意気な臨也が、まるで幼子のように擦りついて離れない。
俺にしがみつきながら『すき』だの『離れないで』だの壊れたレコードみたいに何度も繰り返している。
そういう行為中でさえ挑発を忘れないアイツが、そんなことをするのは夢だけだとわかっているのだが。
それでも夢の中のアイツは俺を何度も呼んだ。
俺の名前を呼ぶことが息をするのと同等のように、しかしあまりにも辛そうに何度も呼ぶからどうしたらいいのかと思考を巡らせる。
頭を撫でてやれば、
抱きしめてやれば、
唇を落とせば、
泣き止むのだろうか。
『俺は離れねぇよ』
そう思って手をアイツにのばそうとすると目が覚める。
現実のアイツはすでに起きていて、やっぱりうざいくらいにまくし立てた。
夢は夢だ。
「んなこと言わなくても出てくっつーの。邪魔したな」
服に袖を通してタバコをくわえてさっさと後にする。
俺にとって、ただの欲求の解消相手にしかすぎないんだ。
コイツにとってもそれは変わらない。
『帰る』と言った瞬間に歪められた表情の意味なんか考えられない。
目元が赤く晴れている理由なんかわからない。
ドアを閉める瞬間にあとにすすり泣く声が聞こえたなんて、
考えたくない。
「シズちゃん」
「すきだよ…っすきっ」
「離れないで」
ポタリと冷たい感触が頬に当たった。
心地よい微睡みからゆっくりと現実世界へと引き戻される。
瞼を開こうと思えばきっと何かが変わるとわかっているのに、開けない。
何かが変わってしまうことが怖くて、臆病な俺はすべて夢のせいにする。
「シズちゃん」
「すきだよ」
「行かないで」
何度も反復される声が部屋中に響いた。
夢の中でさえ手を差し伸べることはできずに
100509 更新