「臨也…好きなんだよ…っ」
事務所につくなり抱きしめられて息が苦しくなった。
ほんとに力の加減ってもんを知らないよなあ…。これでも彼の中では加減をしている方だとは思うのだが、それでも苦しいものは苦しい。
チッと心の中で舌打ちした。まったく全部新羅のせいだ。


「ねぇ、君は惚れ薬でそうなってるだけなんだよ。1ヶ月あとに後悔したくなければ離れるのが得策だと思うんだけど」

前に回された手をぺしぺしと叩いてやるが力が弱まる気配はない。本気で暴れて骨が折れるのはもっと困る。
それでもシズちゃんは俺の名前と『好きだ』を交互に繰り返しながら細かく震えている。さすがにこんなシズちゃんを襲おうとも思えない。


こんな容姿だから昔から男から告白されたり性的な意味で襲われそうになったこともある。
それでもナイフであったり話術だったりで二度と顔を出せなくなるか、または信者のように従えさせてきた。

シズちゃんには通用しない、よなあ…

まてよ。いまのシズちゃんなら信者というか、パシりにするくらい簡単じゃないのか

おいコーラ買って来いよ、みたいな。
それをシズちゃんにできるなんて、素晴らしい!
手玉に取ってやるのも悪くはないだろう。
それよりもありあまる力を持っているんだ。仕事にも便利に動いてくれるだろう。
シズちゃんは大嫌いだけど、この力はずっと欲しかったんだ。

1ヶ月後に『臨也と付き合っている』『パシりのように扱われている』というその現状に頭を悩ませればいいんだ。
そんなシズちゃんを想像するだけでニヤけ顔が止まらない。


「…わかった、シズちゃん」

あくまでも、神妙な面持ちで。

「いざ、や…」

ぐるりと振り返り、自ら腕をシズちゃんにまわす。胸にポスっと顔を埋めて頬擦りをしてやる。ねぇシズちゃん、こういうのすきでしょ?

…ああ、でもすごくタバコくさい。

「付き合ってあげる」

「い、いいのか…ほんとに」

痛いほどに抱きしめられていた腕は驚きのあまり宙をさまよっている。
嫌だなんて言われたら傷つく癖に。

「うん。俺もシズちゃんがすきだよ」
パシりとして、下僕として、『付き合っている』という名のもとにめちゃくちゃにしてやる。

ゆっくりと背中に手がまわされてさっきより優しく、まるで壊れ物を扱うように抱きしめられた。

ほら、今のシズちゃんの扱いなんて簡単でしょ?「臨也、好きだ…」


「もう、それさっき聞いた」

「なんか、夢みたいでよ…」

シズちゃんは本当に夢見心地のようで、笑いが込み上げてくる。
ああ、でも抑えないと。


「ねぇシズちゃん、一個だけお願いきいてくれる?」



牙のない狼なんてこれっぽっちも恐くない。





100501 更新
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