不意をつかれた

「ねぇ、すき」

「うっせぇ」

「すきすきすきすき」

「……」

「すきすきすきすきすきすきす…」

「だぁっもう、うっせーな!」


こめかみに青筋を立てながらシズちゃんはテレビのリモコンを投げつけた。あーもう君はなんてかわいいんだ。(もちろんすんでのところで回避。リモコンは壁にめり込んだ。)
あーもうそうやってイライラした目で見つめちゃって、ほんとにたまんない。

「だぁってシズちゃんてばかわいいんだもん。だあいすき」

「うっせー。黙れノミ蟲。その口縫い付けられてーのか」

更に増して鋭い目つきで俺を睨む静ちゃん。その細められた目さえセクシーで素敵なのにな。ああもう俺ってば静ちゃん中毒?

「縫い付けるなんてしなくてもシズちゃんのお口で塞いじゃうなんてどう?」

「っ…臨也…」

ミシミシと嫌な音がしてそっちの方へ目をやると、ああやっぱり。
立ち上がったシズちゃんの手元にあるベッドのポールが見事に折れ曲がってる。

「やだなぁシズちゃん、俺は入院中の患者だよ?暴力はいけないなー」


そう、俺は仕事でヘマをしてちょっと入院中。っていうのは建て前で、本当はこの病院の内部から情報を探るというのが仕事なんだけどね。

新羅に焚き付けられたシズちゃんがせっかくお見舞いに来てくれたのに、悪いトコなんて全くないなんて知ったら本気で怒っちゃうかな?

「てめぇ、そんな悪趣味な冗談いつまで経ってもやめねぇところを見ると、このまま病院から出たくないどころか葬儀屋送りにしてほしいみてぇだなぁ?」

「わー、それは流石に勘弁かなー。こんなとこじゃまだ死ねないんだよねー俺」

わざとらしく両手を振ってアピールすると、流石に病人(まあ病人じゃないんだけど)相手に手を出すのは引けるのか、シズちゃんは大きく息を吸い込んで座り直した。


「どこが悪いのか全くわかんねぇけどよ、お前が入院するくらいなんだから相当なことなんだろうよ」

「まぁねー…俺このまま死んじゃうかも?」

嘘デース。どこも彼処もビンビンしてマース。
悲しそうな表情をつくって切なげにシズちゃんがいる方とは逆の窓へ視線をやった。
あーあ、俺ってばほんとに演技派。


「…」

「……」

窓の反射越しにシズちゃんをチラリとみると、どう言葉を返したら良いのかわからないような複雑な顔をしていた。
ほんとにかわいい。俺の嘘に簡単に騙されちゃってさ。
背中を震わせながら溢れそうになる笑いを必死にこらえた。
これもシズちゃんには泣いてるように見えちゃったりして。


こうやってシズちゃんの反応を見て楽しんでるのもいいけど、やっぱりかわいそうかな。
そろそろネタバラし

「死ぬなよそんなんで」


「手前を殺すのは俺だろうが」


「勝手に死ぬんじゃねぇよ」



ガラス越しにみたシズちゃんはすごく真面目な顔をしていた。
ごめん、シズちゃんごめん。


「ね、シズちゃん。俺絶対死なないから」
そんな顔で俺を見るもんだから


「シズちゃんが必ず殺してよ」


約束だよ。
なんて笑ってやった。








なんともないのがバレて自販機が飛んできたのはそれから一週間後のこと。


100425 更新
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