唄えなくなった。ある日、突然
私の生きてきた世界では「唄」は絶対で。「唄」無くして世界は成り立たなくて。唄えなくなった私はゴミくずも同然で。彼のようにまとめあげる力があればまた違ったのだろうけれど、持っていたとしても彼がいる時点でその力は必要とされなかっただろう
巡る系譜を、紡げない。私の周りから、音が消えたようだった
そうしてどれだけの月日が経っただろうか
相変わらず唄えない私の両の目は、両の手は、確かに働いていた。……そうだ、何故気付かなかったのだろう。「唄」が絶対の世界にはもういられないのだから、新たな世界で生きよう。「ヒト」と同じように「生きる」のも、きっと悪くない
噂を聞いた。若い男女が、仕事仲間を探しているらしい
私のこの目の力は役に立つだろうか。会いに行く前に、少し、技術を磨いた方がいいかもしれない
「唄を紡ぐだけが、私の存在理由じゃないわ」
昔の名は捨てた
新たな名前は、今まで以上の成長を願って付けようではないか
夏の日に、淡い桃色が静かに揺れた
ハツユキカズラ/化粧、素敵になって