幸せのかたちは人それぞれだというけれど、不幸な事は大抵の人にとっても不幸だ。
たとえば住むところも着る物も食べる物も無くなって、それでも自分は幸せですって言う人は少ないと思う。
(宗教観から見たら、生きているだけで幸福だと唱える人もいるだろうけど)
そんな例外はさておき、わたしはもし自分が先ほど述べた様な状況になったら、不幸だなあと感じるだろう。
雨風も凌げない場所で、ぼろぼろの衣服を身にまとい、飢餓に苦しむ姿を想像して、顔を顰めた。

「どうしたのなまえ、難しそうな顔をして」

隣で本を読んでいたはずのベルトルトが、いつの間にかこちらを見ていた。

「ねえ、ベルトルトは」

わたしは同じ質問を彼に投げかける。
ベルトルトはしばらく悩んでいるように顎に手を掛けていたが、やがて「僕は」と口を開いた。

「住むところも着る物も食べる物も無くなって、だけどとなりになまえがいてくれたら、それは幸福なことだと感じると思う」
「は、」
「逆に衣食住に恵まれていても、なまえがいなかったら、僕は不幸だ」

ベルトルトの深い瞳に映るわたしの顔は、ずいぶんと間の抜けたものだった。
だけど想像の中、不幸だと感じていたはずのわたしは、確かに隣で微笑むベルトルトにつられるように笑っていたのだった。




(一見単純そうで、その実難しい)




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