ふと苺の乗ったショートケーキが食べたくなり欲望のまま買ってきたのだけれど。


ワクワクしながらケーキのまわりに付いている透明のフィルムをはがし終えたタイミングで、窓からソニックさんが入ってきたから驚きのあまり固まってしまった。



「…………」
「……………」
「ケーキか」
「!!」



ジロリと私に向けられた鋭い目が怖くて思わず顔を逸らす。


なんということでしょう。
ケーキは一つ。この部屋にはソニックさんと私の二人。
私だけがケーキを食べるのは悪いに決まっています。ソニックさんが来ることを知っていたらちゃんと二つ用意したのに。


ごちゃごちゃ考えているうちに隣に座られてしまったので、もうあのセリフを言ってこの場は円満におさめてもらうしかないようで。




「あ、あの、よければ一口どうぞ」
「あぁ」



答えながらケーキにソニックさんの手が伸びる。「手掴み?」と困惑する私をよそに、ケーキの上に飾られた苺はしなやかな指先につままれて彼の口の中に放り込まれた。




「……………」
「………………」
「そこですか…!」
「なんだ、文句があるのか」
「いえ…」



確かに今のも一口だけど、そんなベタな…。
無惨にも苺が消えたショートケーキの姿に愕然としていたら横からクツクツと笑いをこらえる声が聞こえ、なんて意地悪な人なんだと睨みつけた。


こんなことになるなら私が率先してケーキをフォークですくい、あーんってソニックさんの口の中へ入れれば良かっ…




『あーん』!?




事の重大さに気付いた瞬間、汗がぶわっとふき出て心拍数も一気に上がる。


ソニックさんにあーんをするという事は、口を開けたソニックさんが私が持ってるフォークにかぶりつくわけで、それはすごく見てみたい光景です。そして今がその千載一遇のチャンス!




「おい、食べないのか」
「ソニックさん!!!」
「なんだ急に…」



フォークでケーキの角をすくい取ってソニックさんの口元へと差し出す。



「あのっ!クリームとスポンジも食べませんか!」
「……は?」



驚いた顔で差し出したフォークを見つめられる時間は気まずいけれど、ここは私も引けません。
さぁソニックさんどうぞ。私はショートケーキの一番大事な部分を取られたのですから、これくらいの素敵な思い出は残したいのです。

 


「いいのか。悪いな」
「わっ悪くなんて!」



来るっ!
と身構えたら肝心のお顔はテーブルの方へ向けられて、そのままケーキが乗ったお皿を取られた。




「え… そっちですか!?」
「食い意地をはってるお前が俺にケーキを譲ることが出来るとはな。ありがたくいただこう」
「違います!そっちじゃなくて…!あぁっ」



いつのまにかフォークまで奪われ、涼しい顔でケーキに切れ目を入れているから恨めしい。



「私のぶんが無くなります!もうっ!分かってやってますね!?」
「なんのことだ?」




口では知らん振りしているけどこのニヤニヤした顔。本当にこの人は意地悪です。



思いついた計画は台無し、せっかく買ってきたショートケーキは全て奪われ、もう私にはクリームが僅かに付いた透明なフィルムしか残ってません。




「なまえ」
「!」



名前を呼ばれたので顔を上げると、ケーキのスポンジとクリームをすくったフォークが口元に差し出されている。


これは、私があーんして食べろって事ですか?




「じ、自分で食べれます、から」
「これは俺のケーキだが、特別にお前にも食べさせてやろう」



絶対あなたのじゃないでしょう…って反論できる雰囲気ではなくて。



「どうした?食べたくないのか?」
「むむ…」



なんて人。性格が悪いとは思っていたけれどここまでとは。
この人は私がやろうとしている事を全部見透かしていて、私はいつもいいよう遊ばれてしまうのです。今だって私が断ることはできないのを知っているのでしょう。



観念して差し出されたフォークにかぶりつく私の姿
を満足げに眺められ、とてつもなく恥ずかしい。



「どうだ?」
「おいしい…です」
「皿の上にはまだ残っているが、どうする?」
「…………食べます」




餌をもらうときの犬はこんな気持ちなのだろうかとぼんやり考えていたら二口目が差し出される。
熱い視線と甘いバニラの香りに酔って、このまま飼われるのもいいかもしれない なんて思い始めていた。





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