あのお店のケーキが美味しいとか、そこのシュークリームが絶品なんて話をよく聞くけれど、私が今一番気になっているのは桜餅です。

昨日ソニックさんとの修行の後にそんな話をしてみたら、くだらないと一蹴されてしまいました。





今朝は珍しく修行のお誘いがなかったので、青空と穏やかな陽気に誘われるまま少しだけ散歩をして戻ってきたとき。

私の家で一番陽当たりの良い畳のお部屋で、今日はもう来ないと思っていたソニックさんが仰向けで寝そべっていたから驚きました。




「ソ…」




ソニックさん、と言いかけた口を慌てて押さえる。
この様子。もしかしてお昼寝中ですか?



私が留守の間にソニックさんが侵入しているのは毎度の事だけど、こんなふうに無防備に横になっているのは初めてです。


眩しいお日様の光を遮るように片腕で目元を覆っている姿と規則正しい息遣いがなんだか新鮮です。
さすがのソニックさんもこの暖かい陽気には勝てなかったのでしょうか。




「あ」




せめて何か掛けるものを持ってこようとしたとき、ソニックさんの横にある和菓子屋さんの紙袋を目ざとく見つけてしまいました。


あれはもしかして。もしかしなくても。


昨日くだらないなんて言葉を吐き捨ていたのに、まさか持ってきてくれるなんて。



こんなに素敵で嬉しい出来事は滅多にないでしょう。
けれど一つだけ心配なのは、桜餅とソニックさんにすごく陽射しが当たっているのです。
ソニックさんはともかく、桜餅がこのまま熱にやられて食べられなくなってしまったら一大事。 



今私がやるべき事は、ソニックさんを起こさずに、桜餅を安全な場所へ避難させることだと思うのです。
ソニックさんが起きる前に食べてしまおうなんて邪な考えは決して持っていません。決して。これは桜餅の品質のためなのです。



畳に手と膝をつき四つん這いになって、息を殺して桜餅に近づく。ソロソロと慎重に。




あと少し。



伸ばした指先が袋に触れた瞬間、手を力強く掴まれてあっという間に畳の上に転がされていました。





「何をしている、なまえ」
「起きてたんですか」
「当たり前だ。で、この手は何だ?」




ばつが悪い表情をしているであろう私を見下ろしながら、これが欲しかったのか?と桜餅の紙袋を目の前に差し出される。
あぁ、なんて意地の悪い笑顔。



「か、紙袋を日射しから避難させようと…」
「ほう?」



言ってみたものの、やっぱり全く信じてもらえない。 袋は私の手が届かない位置にガサリと落とされて。
覆い被さるような体勢で両の手首を押さえつけられているこの状態は、なんだか危ない気がします。



そのまま近づくお顔にドキッと体が強張る。この行為はいつになっても慣れないので緊張が走ったとき。ふわりと柔らかい香りがして思わず「あ」と呟きました。



「……なんだ」
「今、ソニックさんからお日様のにおいがしました」
「なっ!」



驚く彼の首もとにもう一度鼻を近づける。やっぱりいい匂い。小さい子どものような、子犬のような、不思議で懐かしい香り。



「きっと畳の上でポカポカしていたから」
「だまれ。もういい」



そんな雰囲気ではなくなってしまったらしく、さっさと私の上から退いてしまったソニックさんにホッとしたような残念なような。


自由になった体でごろんと寝返りをうつと、改めてここがとても暖かくて気持ち良いことに気付きました。




「いつまでそこで横になっているつもりだ。これを食ったら修行に行くぞ」
「はい… もう少しだけ……」




どんどん眠くなってきて、口から出るのはうつろな返事ばかり。
もう少しここでこのまま寝ていれば私もソニックさんのようにお日様の匂いになれるのでしょうか。



聞こえてきた溜め息に心の中で謝りながら、そのまま心地よい夢の中へと沈んでいったのでした。





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