「あ、ソニックちゃん」
気配を殺して近づいたのに、また振り向いて笑っていた。忍としては俺のほうが各段に優れているが、この時ばかりはコイツもそこそこやり手であると認めてやらんこともない。それよりも…
「その呼び方はやめろ」
「ごめんね」
「昔から言っているはずだ」
「うん、昔からずっとこの呼び方」
お決まりの微塵も悪びれる様子がない謝罪にも慣れた。まだ暫くはこのふざけた呼び方が続くのだろう。
「いつもダメダメって言うけど、何て呼んだほうがいいの?」
「…………は?」
「どうせならソニックちゃんの好きな呼び方のほうがいいと思って」
なんだこの質問は。今呼び方を変える気か?
俺がなまえからどう呼ばれたいか…。
散々やめろと言ってきたが、別の呼ばれ方など考えた事がなかった。世の中に敬称は色々あるがなまえから呼ばれるとなると。
「………ソニック」
「うんうん」
「…だから、呼び捨てでいい」
「え」
俺もなまえのことをなまえと呼んでいる。下手に飾りたてるよりそのままでいい。
「よ、呼び捨てなんて、いいの?」
「お前から言い出したんだろ。いいから呼べ」
「てっきりソニソニとか変なのだと思って…」
「殺すぞ」
「待って!わかったから!」
何度も深呼吸をし、よーし、と意気込んで両頬を叩いている。気合いを入れてるんだろうが、普段は物怖じしないくせに俺の名前を呼ぶくらいでこんなに動揺するな。
不覚にも見ているこっちまで緊張が伝わるので舌打ちして目を逸らした。
「なまえいきます!」
「!」
「そ、そに、…ソニックちゃん!!!」
「…………」
「……………」
「お前…」
「だって昔から呼んでるんだもの… いきなりは無理…」
結局こうなるのか。
隣からソニ…ソニ…とうわごとのようなものが聞こえるが無理そうだ。
だが改めて考えると、なまえから呼ばれるなら今までの呼び方でも悪くないのかもしれない。いずれは変えさせるが、今はまだ、このままでいいような気がした。
気配を殺して近付いた先で、また振り向いたなまえと目が合った。
「あ、ソニックちゃん」
「何を笑っている」
「…! 会えて嬉しいだけだよ」
お決まりの謝罪は無くなって、昔と少しずつ違ってきて。それでも変わらずに笑顔ななまえの姿に少しだけ口元が上がった。
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